×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

≫2



「隆也、とりあえず防具脱いで。その間に足の下に置ける物持ってくるから」
「わかった…」

ようやく踏ん切りがついたのか名前の言葉に素直に従い、防具を田島に手渡した。それを受け取った田島は今日のデータを確認しながら防具をつける。そして「ストライク・ボールの指示は私が出す」という言葉を聞き、固い表情でマウンドに向かっていった。


「はい、足ここに乗せて。足、上げれる?」
「へーき」

両手で足を持ち上げて、みんなのエナメルの上に足を乗せた。エナメルはどうかとも思ったが、他に乗せれるような物がなかったので致し方ない。
名前は阿部の体がきちんと安定したことを確認すると、早速圧迫に取り掛かる。

「ズボン捲るね、痛かったら言って」

そう言って捲り上げると、とても痛々しく腫れ上がった膝が姿を現した。それに少し息を呑んだ名前は、静かにサポーターを手に取った。



「よし、こんな感じでどう?」

一応済んだので、顔を上げた名前。だが視線の先にはすごい表情でマウンドを見つめる阿部がいた。どうやら三橋田島ペアが四球を出してしまったようで、頭に血がのぼっているみたいだ。だから勿論彼女の声は聞こえておらず、返事はない。名前はそんな阿部に微かに眉をひそめ、先程圧迫した部分をペシッと叩いた。

「……ってぇ!!」
「圧迫!どうなの?」
「んあ?大丈夫だよ。つーか叩くなっての」
「じゃあその顔やめなさい。監督に怒られるよ?」
「そうよ阿部君。チェンジまでにそれどうにかできないならすぐ病院に連れて行くからね」
「ういっす……」

監督に諭され何とか表情を押し殺した阿部は、黙って圧迫された部分を見つめた。すると名前の後ろから先程の救護の女の人がひょっこりと顔を出した。

「慣れてるわねぇ」
「父がスポーツトレーナーだったので…でもまだまだです」
「そんなことないわよ。あなたの歳でそれだけできれば十分!先生方も助かってると思うわ」
「そうだといいんですが…」
「自信持って!じゃあ私はもう行きますね。何かあったらまた言ってください。あとで松葉杖持ってきます」
「はい、ありがとうございます!」
「したっ!」

ベンチ組が全員で頭を下げると、救護の人はその場を去った。


「名前」
「何?」
「これ…どのくらいで治るんだ?」

真剣な表情の阿部に、名前はまっすぐな眼差しで答えた。

「成長期だし…安静にしてれば三週間で治ると思う。…でもそれじゃあ駄目なんでしょ?」
「当たり前だ。ガンガン食って気合いで二週間以内に治す!」
「無理はしないでね」
「ああ」

───…俺三年間怪我しねぇよ!病気もしねぇ。お前の投げる試合は全部キャッチャーやる!
そう約束したばかりなのに。あの時の三橋の表情が頭に浮かび、何とも居た堪れない。絶対に二週間で治す。そう心に固く誓った。



「千代ちゃん。氷使っちゃっていいんだっけ」
「あ、うん。大丈夫だよ!」

篠岡の了解を得て、名前は氷の確認をしに移動した。
それから間もなくして、チェンジのために選手達がベンチへと戻って来た。そして数人が阿部の所へ直行する。

「捻挫でこんなんすんだ」
「何で足上げてんの?」

泉が屈んで膝を覗き込む横で、水谷が不思議そうに尋ねた。

「お前RICE知らねーの?」
「米だろ?」
「面白くねーぞ!」

水谷に花井が思わず突っ込む。だが当の本人は至って真面目に答えたようで、みんなが呆れているのがどうにも理解できないらしい。 なので、アイシングのために戻ってきた名前に水谷は助けを求めた。

「なーなー名字、RICEって何?」
「米よ」
「名字!?」

予想外の答えにまたもや花井が声を上げた。反対に水谷は満足そうだ。

「ほらねー。やっぱり米じゃん!」

安心感でいっぱいの表情の水谷。だがその横で名前の企みに気付いた泉がニヤリと笑った。

「おーそうだよ米だよ」
「なーんだ。良かった」
「あ、いや、ちょっ…泉、」
「えっ、やっぱり違うの?」
「ちがくねーって」

飽くまでも米で押し通す泉に花井は若干同様した。が、わざわざ教えてあげる義理もないかと、泉に便乗する事にした。


「なぁ、名字…」

マウンドに戻る前にどうしても聞いておきたい事があった花井は、小声で名前に話しかけた。

「あの…さっきのRICEだけど…」
「ああ、あれ?冗談よ」
「へっ…?」
「本当は安静、冷却、圧迫、挙上でしょ?」

悪戯っぽく笑う名前に花井は安堵した。

「なんだ良かったー。俺マジで知らねーのかと…」
「真面目に答えるより面白いかなって。ふふっ、泉君は気付いてくれたみたいだけどね」
「ああ、だからアイツ…」

先程の泉を思い出し、成る程と合点がいった。これでなんとなくスッキリした花井は、グローブを持ち、マウンドへと足を運んだ。



.

*prev | next#


back