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≫終幕1






七回の表。打者はキャッチャーの倉田からだ。
今回も一回目で三橋には首を振らせたが、読み勝ちされて、スライダーを打たれてしまった。

「(読まれた…!?)」

ボールは左中間を抜け、倉田は二塁へと回る。
そして次の打者は勿論バント。阿部は初球からまっすぐを使い、見事ストライク。その後の一番には出し惜しみせず全球まっすぐを使う。予定だったのだが。
二球目のミットに収まるはずだったボールは、セーフティーで前に転がり、二塁のランナーが三塁まで進んでしまう。
一死一・三塁で二番。これはもうスクイズ警戒をしなければいけないが、満塁で四番にまわすわけにもいかないので、まっすぐでストライクを入れなくてはならない。

「(まっすぐで速い球を内高目にストライク…)」

阿部が素早く指示を出す。二球目もスクイズではなかったが、ランナーが二塁へと回り、カウントは1─1。いかにも次、といった雰囲気で阿部は三球目を要求した。勿論ボール球だ。三橋はバットが届かず阿部が届く位置を定め、思いっきりそこを狙って投げた。サードランナーはそれと同時に走り出した。

「読み勝ち…!」

名前も思わずそう呟いたその瞬間、バットがボールに当たり、沖が処理して阿部の元へボールを返した…のだが。
それは大きくそれてしまい、気付いた時には鈍い音と共に阿部が地面でうずくまっていた。

「……っ、く…」

審判が「セーフ」とコールする中、必死に痛みに耐える阿部。それにいち早く気付き駆け寄った田島はタイムをとり、冷静に判断する。緊急事態にただただ呆けてしまっている三橋を呼んで、治療のためにベンチへと阿部を二人で連れて行った。ボールを変な方向に投げてしまった沖は勿論青い顔をしているが、ベンチ組も少々焦り気味だった。

「隆也…」

こちらに向かってくる阿部を見ながら微かに漏らしたその言葉を、監督は聞き逃さず、そっと名前の表情を伺った。もしかしたら一番パニック状態に陥るのではと心配だったのだ。だが、その心配はあまりいらなかったようで、彼女はただ冷静に彼を見つめていた。





「膝の捻挫ですね。痛いでしょう、今の段階で腫れが出ているのでおそらくU度の…」
「痛くないっすよ」
「え、」
「捻挫ですよね、テーピングしてもらえますか」

周りが驚く中、救護の人に対して阿部はきっぱりとそう言った。なんとしてでも試合に出ようとしているのがよくわかる。

「阿部君、立ってみて」

監督の言葉にスクッと立ち上がる。が、

「左足に体重かかってないよね」

監督には見抜かれてしまっていた。

「足がつけないなら間違いなくU度以上ね。U度は靱帯に裂け目ができてしまった状態のことだよ。今動いたら確実に悪化するし、第一痛くてしゃがめないでしょう」
「…やれます」
「やれないよ。やっと立ってるような人が何言ってるの。名前ちゃん、後よろしく!田島君は防具つけて!」

監督は阿部の返事を待つ前に、次々と指示を出していった。名前も黙って頷き、すぐさま仕事に取り掛かる。

「名字、圧迫もやれるか?」
「はい、やります。膝用のサポーターを持ってきてますのでそれを使おうかと」
「お、じゃあ先生が持ってこよう」
「すみません、助かります」

志賀先生と名前が相談している最中に、阿部が三橋の腕をギュッと掴んだのが視界に入った。周りの動きが一瞬だけ止まる。
そしてその沈黙を静かに三橋が破った。

「あ…べ君…座って、ア、アイシングだよ…」

阿部はゆっくりと腰をおろしたが、一向に手を離す気配はない。困り果てた三橋はもう一度阿部に語りかけた。

「アウト二つ…とって…くるよ」

その言葉でようやく手は離れ、三橋は思いつめた表情でマウンドへと戻っていった。




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