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次は西浦の攻撃。
一番の泉は、上手く一球目から手を出すことができた。だがボールは正面へ上がり、アウトとなってしまった。彼曰わく、緊張はしなかったらしいがあまり納得のいく打席ではなかったことを表情が物語っている。それを横目で見ていた名前は、栄口、巣山と続き、田島の打席になってあることに気がついた。田島のバッティングからして、もう彼は気づいているだろう。だから敢えて名前は泉の元へ歩み寄った。

「泉君…」
「ん?」
「打席、打席に立った時に相手の守備を意識してみて」
「え、」
「…向こうはね、多分…」
「名前ちゃん!」

泉に説明を加えようとした時、監督に呼ばれたため、話を途中で切らなくてはならなくなった。名前は申し訳なさそうに眉を寄せ、監督の元へ急いだ。

監督の元へ行くと、ちょうど監督が阿部に向かって「私からサインを出そうか」と持ちかけているところだった。阿部は一瞬無言になり、側にいる名前に目を向けて「やらせて下さい」とだけ告げた。監督はまだ心配そうだが、本人がそう言うのだから仕方がない。ここはもう彼らを信じるしかないのだ。

「監督、あの…」

非常に言いづらかったが、名前が恐る恐る声をかければ、監督は一瞬笑って彼女を見た。

「ああ、ごめん!ちょっとスコア見せてもらおうと思って呼んだんだ。貸してもらっていい?」
「あ、はい」

監督も相当焦っているのだろう。一瞬向けた笑みさえも、苦々しかった。
だが確かに、監督の気持ちは自分にだって痛いほど理解できた。何かおかしい。そんな妙な違和感の原因を探るためにマウンドをみれば、キャッチャーの倉田が打席に立っているところだった。そして外の低めのカーブを打った瞬間。
名前はその原因を見つけ、思わず声を上げてしまった。

「あれっ、」

まだはっきりとはわからない。しかし横にいる監督の邪魔をするわけにもいかず、次の打席を見ていた名前は、そのバッティングを見て確信に変わった。

マウンドから監督の元へ直行してきた阿部の横に並んで、自分なりの考えを2人にぶつけた。

「あの、ちょっとごめんなさい!」

阿部の報告の途中に申し訳ないと思ったが、一刻も早く伝えたい気持ちが上回った。

「コースがね、みんなが打ってるコースが逆なんです!」
「え…」
「阿部君、打者の打ったコースだけ言ってみて」
「…1番外、2番真ん中3番外、4番内5番内6番内7番内、8番外……あれ」
「でしょう」
「でも何で…」
「それもわかる?名前ちゃん」

2人の視線が名前に向けられる。名前は若干緊張しつつもポツリと言葉を漏らした。

「相手の好きなコースは…ボール球だから…」
「確かに…ボール球を多く投げさせてますね。それで向こうはやけに余裕もって見送ってたのか…」

悔しそうな阿部を、名前は黙って見つめていた。すると監督が真剣な眼差しで声を低くして言った。

「得意なコースにはボール、が阿部君のクセになってるのね?」

そう言われて阿部は表情を硬くする。
すると、マウンドから沖の名前をコールしたのが聞こえてきた。名前は慌てて阿部の防具に手をかける。

「隆也、ネクスト…っ」
「うおっ、やっべ…」

そのまま名前は阿部の防具を預かり、彼を見送った。

「……阿部君のクセなんて言っちゃって…可哀想だったかな…」

マウンドに視線を戻しながら監督は名前に呟いた。

「投手が三橋君だからこそ……なんだもんね」
「いえ…まぁそうなんですが…あの人のクセといえばクセでもあるので。でもこれで、少しは対策が練れるんじゃないかと思います。分かってしまえば単純な話ですからね」
「そうね…問題は、攻撃面も研究されてるだろうってことね」
「そうですね。でも…空いた所を狙って打つのはなかなか難しいですよ。ある程度計算できるのは栄口君と…田島君…」
「よねぇ…」

監督と名前は揃って難しい顔をした。タネがわかっても、バッティングに関しては「できることしかできない」状態。状況を打破するためにはまだまだ障害が沢山あった。

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