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「隆也おはよ」
「おっす」

チアガールの衣装を渡して2日。今日はついに試合の日だ。朝は普通に練習をして、昼から球場へ向かう。名前も今日は自然と早く目が覚め、早めにグラウンドについた。

「調子はどうだ?」
「もう全然平気。あれからここ3日、熱も出てないし具合も悪くないよ」
「そうか、ちょっとでこ貸せ」
「ん、」

前髪をかき上げて、少し背伸びをした名前に、阿部はコツンと自分のおでこをくっつけた。

「お、ほんとに熱ねーな」
「四回戦まで行けなかったらどうしようかと思ってたよ」
「俺も」

阿部がそう言ってふっ、と笑った時、丁度三橋がやって来た。早速阿部が体重を尋ねたところ、徐々に戻ってきているようで、名前も安心した。そのあとに「危ないものは食べるな」とか「体育祭で出る種目について指示」したりと、ねちねちねちねち阿部の注意が行われた。周りにいた泉や田島は呆れ顔だが、三橋だけは違っている。

「あ、阿部君…あ、あ…ありがとうっ」
「おー」

自分が大事にされていることを感じとった三橋は、つい嬉しくなってお礼を言った。そしてそのあと。


「あ…べ君…は…キャッチャー……やめる?」


思いがけない一言だった。名前も側で耳を疑ったが、阿部に至ってはもう声を荒げていた。


「なわきゃねーだろこんのスカタン!!!!!!テメーは俺のどこをどう見てそう思うんだよ!!」
「た、隆也…っ」

興奮気味の阿部を抑えようと腕を掴んだ名前。三橋だってすっかり怯えてしまっているのでこれ以上叫んでも無意味だ。

「落ち着いて…今は試合優先…っ」
「……名前…」

名前の必死な表情に、冷静さを取り戻した阿部は、大きく深呼吸をして三橋をグラウンドへ送り出した。

「サンキュー、名前」
「ううん」
「…しっかし…三橋は何であんなこと言うんだ…?」

走って行った三橋の背中を見つめながら阿部は話す。名前も同じように見つめながら、小さく口を開いた。

「多分…まだ心配なんだと思う…」
「はぁ?心配って?」
「んー…ほら、隆也がいないと…俺…投げられなくなる…みたいな?」
「…ああ。そういうこと…」

はぁ…とため息をつく阿部。それを名前は苦笑いで見ていたが、集合の合図がかかったのでこの話は途中で切り上げとなった。


西浦対港南。
6対3で、西浦が勝利を修めた。

「お疲れ様」
「おー」
「柔軟終わった?」
「取り敢えずやっといた。けど後から念のため三橋見といてくれるか?」
「いいよ」
帰りの車を待っている時、名前は阿部の側に寄り、声をかけた。

「ついでに隆也も見ようか?」
「俺はいいよ。何かあるなら自分から言うし。あいつは言わねーだろ」
「まあね…」

そうは呟いたものの、果たしてそうだろうかと名前は思っていた。名前的には阿部も結構痩せ我慢するところがあるように感じる。だからこそ心配なのに、何もできない自分がいて、名前は黙りこんでしまった。


その日の夜10時。
阿部と阿部の父親は、今日の試合を振り返りながら晩御飯をとっていた。

「…お前さ、三橋とうまくやってる?」
「え、やってるよ」
「……お前…友達いないんじゃないの?」

唐突な質問に、阿部の箸が止まる。

「はぁ?何でいきなりそーなんの?投手と友達になる必要はないでしょ?」
「そうじゃなくて、お前が今三橋とうまくやってると思ってんならお前の友人関係もたかが知れてるってこと」
「俺だって…三橋相手じゃなきゃうまくの基準はもっと高いよ。初めなんてマジで言葉通じなかったんだから」
「へぇー言葉がねぇ?」
「ちょっと……俺ホント努力してんだぞ。三橋って何か変わってて、10分会話続けんのだってスゲー大変でさ」
「お前が相手だからじゃねぇの?」

それを聞いた瞬間、阿部はカッとなって食卓を叩いた。

「ちげえよ!!!!」

「お父さん!タカを挑発するのやめて!タカはもう寝なさい!」

母親の仲裁が入り、なんとかその場はおさまった。だが、阿部の気持ちの方はまだ落ち着いてはいない。そんな状態で洗面所に行き、歯ブラシをくわえたもんだから、途中でイライラがよみがえってきて歯ブラシを噛んでしまった。そんな時にふと、背中に重みを感じて阿部は振り向いた。

「………名前」

そう名前を呼ばれた彼女は、阿部に後ろから抱き着くような感じで立っていた。

「お前、シュンとゲームしてたんじゃねーの?」
「…もう10時だもん、シュンちゃんも寝なきゃダメでしょ?」
「あーまあな…」

阿部は名前に抱き着かれたまま、コップに手を伸ばして口を濯いだ。そうして、名前の方にゆっくりと身体を向ける。

「俺さ……」

戸惑いの表情を浮かべながら言葉を発した阿部の口に、名前は背伸びをして優しく手を置いた。

「しーっ、上行って話そ?」
「そうだな…」




「俺さ、俺だってさ、三橋との間が何か変なのはわかってんだよ。このままじゃいけないのもわかってる。でも俺だって、精一杯やってんだよ…」

部屋に入って自分のベッドに腰かけた阿部は、膝に手を置きながらポツポツと話し出した。それを黙って聞いていた名前は阿部が話し終えたところで、そっと彼の手に自分の手を重ねた。

「うん、知ってるよ。私は知ってる。でもおじさんだって隆也を悪く言おうと思って言ったわけじゃ…」
「それはわかってる。それに親父には色々してもらって感謝してんだ。だけど…」
「…まぁ、頑張るしかないよね。これからじっくり三橋君と打ち解けていけばいいと思う」
「はぁ…三橋と打ち解ける日なんか来るのかねぇ」
「頑張って。バッテリーなんだから、もっと打ち解けるっていうか仲良くなるに越したことないんだから。私にできることなら何でも手伝うから」
「…サンキューな」

名前の頭にポンと手を置き、彼女を見つめた。名前も微笑みながら阿部を見つめる。

「…隆也」
「なんだ?」
「キスしていい?」
「ダメ」
「…なんで?」

少し頬を膨らませて首をかしげた名前に、阿部は優しい笑顔を向けた。

「俺からするから」

そう言って彼女の頭を引き寄せて唇を塞いだ。いつも以上に優しいキス。その優しさに応えるように、名前は阿部の首に腕を絡めた。

「…名前」
「なに?」

唇を離した後、今度は阿部が問いかける。

「今から襲っ…」
「ダメ」
「なんでだよ」
「まだおじさんもおばさんも起きてるから」
「ちっ…」
「舌打ちしてもダメ」
「わーってんよ」

頭をガシガシしながら、もうすでに名前の上に跨がっていた阿部はそこを退いた。そんな彼の行動を見ながら名前はクスクスと笑う。それを見て阿部は一層ため息を深くした。

「じゃあせめて今日一緒のベッドで寝てくれよ」
「何もしない?」
「…多分」
「多分って…ふふ、いいよ」
「マジで?」
「うん、何もしないならね」
「わかった。努力する」
「よろしい」


こうして2人は同じベッドに入り、お互いに抱き合いながら明日を迎えた。

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