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「ベッドまで歩けるか?」
「歩きたいけど…だめ…フラフラする…」
「じゃあ、ほら」


阿部は自らの腕を名前の背中と膝の裏に入れ、お姫様抱っこの状態で二階のベッドまで運んだ。名前は、先程よりは随分落ち着いたが、いまだにぐったりしていて本当に辛そうだった。声もまだ掠れていて、途切れ途切れにしか会話ができない。そんな彼女をベッドに寝かせた阿部は、一旦そばに膝をついた。

「俺、今日は泊まるから」
「ありがとう…」
「よし、じゃあもう寝ろ。俺も近くに布団敷いて寝るからさ」

そう言って立ち上がった彼の服の裾を、名前の指が引っ張った。

「待って……」
「どうした?」
「お願い…一緒に…ベッドで…寝て…」
「………わかった」


本当は、最初から名前と寝ようと思っていた。だけどよく考えたら自重するべきなんじゃないか、そういう考えが頭をよぎって、阿部はなかなか言い出せなかったのだ。だけど今日は彼女からお願いしてきた。名前からお願いしてきた時は、大体自分が辛い時が多い。まぁ、ただ甘えたいという時もあるかもしれないが、どちらにせよ彼女から阿部を求めてきたのだ。ここはきちんとこたえるべきだろう。



阿部はそっとベッドに入り、名前を抱き締めた。彼女もそれに応えるように、阿部にギュッと抱きつく。

「なぁ…無理にとは言わねぇから、何があったのか話してくれるか?」

名前の髪に顔を埋めながら、阿部は口を開いた。その下で名前が小さく頷く。


「…叔母…さんが来たの」
「叔母さんってどっちの?」
「お父さん側…。お父さんの妹なの」
「何でまた…」
「おばあちゃんが来れなくなったから代わりにって…」
「それで?」




それから、名前は一言一言を苦し紛れに出しながらここ2日で起こったことを説明しはじめた。










母親のいない間、祖母が来ることになっていたので昨日の朝、名前は祖母の到着を待っていた。しかし、インターホンを鳴らしたのは祖母でもなく、祖父でもない叔母であった。
叔母とは小さい頃からよく遊んでいたほど仲が良く、優しい性格の彼女が名前は大好きだった。しかし、その性格が180度変わったのはあの日の夜、病院でのことだ。

大好きな自分の兄が死んだと聞いた瞬間、名前のせいだ、名前のせいだと悪意の目を向けるようになった。周りの人が名前のせいではないと言うが、まったく聞く耳を持ってくれない。

そんな叔母が名前の家に着いてまもなく、叔母は名前に学校へは行くなと告げた。彼女に逆らえない名前は言われた通りに部屋へと戻った。
それから彼女の復讐が始まった。



あのあとすぐに、叔母が部屋に入って来た。手には何かもっている。

「…どう…したの?」

恐る恐る尋ねるが、祖母は返事をせずただ持っていた物をベッドへぶちまけた。

「いいご身分ね。あんなことしといて平気で笑っているなんて。きっとあなたは何も感じてないんでしょうね」

「…っ、……」

冷たい笑みでぶちまけられたそれは、あの日、父親が身につけていた物だった。シャツ、上着、ズボン…どれも血に染まって赤黒くなっている部分が多々あった。一旦ついてしまった血液は、洗ってもなかなか取れない。だからこそあの日の記憶が鮮明に甦ってきたのだ。

「これを見ても何も感じない?あの日のことを再現してあげようか?」

「や、やめ…止めて!」

耳を塞いで名前はその場に蹲った。その上で叔母はせせら笑いをして、部屋を出ていった。

部屋に1人、取り残された名前はベッドの上の苦しい記憶で頭がいっぱいになってしまっていた。

その日から叔母はもちろんご飯も食べさせてくれないし、一日中言葉で責められ続けた名前は壊れる寸前であった。終いには、「あんたの顔、見てるだけでイライラする」と、2、3度ぶつ所まで至った。しかし、叔母は急用ができたらしく、阿部が来る少し前に家を出ていった──





話を聞き終えた阿部は、ただただ震える名前を抱き締めることしかできなかった。

「…っく…ふ、ひっく……」
「ごめん、ごめんな…気付いてやれなくて」


話しながら再び涙を流す名前に、阿部も泣きそうになりながら言った。

「な、んで…っ私だけ生き残っ…っく…やっぱり私、のせい…っで…っ」
「んなことねーって!お前はもう十分苦しんだ、十分すぎるほど苦しんだ!もういいんだ、誰もお前を怒っちゃいない」
「だ、だって…叔母さ…っ」
「その人のことは気にするな!お前…名前にはほら、たくさん支えてくれる奴がいるだろ?俺だってその1人だ。だから安心しろ、大丈夫だから」
「っふ…っ、うん……」

コクンと頷いたのを確認した阿部は、名前の頭をポンポンと軽く叩いて優しく微笑んだ。


「ほら…もう寝ろ。ずっとここにいてやるから」
「…ありがと…」

とは言ってもそう簡単に眠れるはずがない。瞼を閉じればまたあの人が浮かんできそうで怖かった。だけどもう彼には心配をかけられないので、名前は無理矢理眠りについた。

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