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病院について間もなく、母と姉が病院に到着した。先生から非常に危ない状態だと聞き、母はその場に崩れ落ちる。姉はそんな母の肩を抱き、父の無事を祈っていた。





それから数時間後、医師の口から父の死が告げられた。原因は勿論出血多量によるものだ。刃物が刺さった場所が悪かったようで、すぐに輸血を行ったが間に合わなかったのだと申し訳なさそうに話していた。私はその事実を受け入れられず、とめどなく流れ落ちる涙を拭いもしないで冷たくなった父の手を握った。後ろで声を上げて泣く母と姉。それを背に受けながら、動く事のない父の顔を見る。

「おと…さ…」

鮮明に頭の中に残っている記憶。優しくて、面白くて、頼れる父親。今日(日付的には変わっているが)だって二人で選んだプレゼントをサプライズパーティーで姉に渡すつもりだった。それなのにどうして。どうしてこうなった?

「…ねぇ…プレゼント…買いに、」

返事はない。
何で、どうして返してくれないの。笑ってくれないの。
どうして、私じゃないの。

私のせいだ。私のせいで父は死んだ。私が身代わりになっていればどんなに良かっただろう。あの時あの男達から自力で抜け出せていればこんなことにはならなかったのに。私のせいで。

「お前のせいじゃないからな!」

隆也は私が思っていることがわかったのかいきなり声をあげた。私はびくりと肩を震わせて、振り向く。

「お前は何も責められることはしてない。頼むから、そんな顔止めてくれ」

肩が濡れるのも気にせず、隆也は私に思い切り抱きついた。息も容易に出来ないほど強く抱きしめられ、一瞬私の涙が止まる。そして気付いた。隆也も肩を震わせていることに。

「…ッ、」
「名前……」

静寂を纏った病室に、二人の咽び泣く声が木霊した。



それから数日間、私は高熱に魘された。どうやら看病は隆也と母がしてくれたみたいだが熱が出ていた時のことは、頭が朦朧としていたのであまりはっきりとは覚えていない。だけど、その間に犯人は無事見つかり逮捕されたらしい。しかし私の心は一切晴れず、熱が下がった後も部屋のベッドの上で蹲っていた。ご飯もろくに食べず、誰が来ても会話をしないという状態だ。

そしてまた何日か過ぎた。私がまともな食事をしなくなってそろそろ一週間になる。そんな時、いつもとはまた違った面持ちで隆也が部屋に入ってきた。

「あ…べくん…?」

自分でも驚くほどに弱々しい声が出た。

「名前…お前ろくに飯食ってないんだってな」
「……」
「食欲が出ないのはわかる。でももうちょっと食わねぇと…お前が死んじまう…!」

ものすごく辛そうな顔で隆也は私のそばにしゃがんだ。そして私をゆっくりと優しく抱き締めてくれる。

「阿部君…」
「…お前まで死んじまうなんて俺は嫌だ。頼むから…親父さんが守った命を粗末にしないでくれ…」
「…っ」

この言葉を聞いた時、私は隆也の首元に顔を埋めてまた泣いた。そうだ、これじゃいけない。私がしっかりしないと、父がまた苦しむ。もうこれ以上私のせいで父を苦しめたくない。

「生きろ」








名前が話し終えて周りを見ると、見事に皆しんみりとしていた。無理もない。あんな話を聞いたばかりなのだから。

「あ、もう大丈夫だからそんなにしんみりしないでね?」
「…うん……」

慌てて言葉を付け足した名前に田島が小さく返事をする。するとそんな田島を皮切りに皆がぽつぽつと頷いていった。

「俺同じ中学なのに全然知らなかったよ…」
「一応学校には言わないでって言っておいたからね」
「そうなんだ」
「うん、さっ、試合も終わったしそろそろ帰らないと!」

名前はスッと立ち上がると、監督の元へ走っていった。その場に残された人達はというと、しばらく沈黙があったのだが、阿部が不意にその沈黙を破る。

「これからも…名前にはいつも通りに接してくれると助かる」

いつになく真剣な表情の阿部に、泉が一番に言葉を放った。

「当たり前だろ!俺達が急に態度を変えると思ったのか?」
「大丈夫だから、心配すんなって」

花井も後に続く。その言葉に阿部は安堵した。

「サンキューな」





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