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≫三星vs西浦1






「荷物おろして!すぐアップはじめるよ!」

監督が勢いよく車のドアを閉め、指示を出す。名前達はそれぞれ鞄を持ち、グラウンドへと入って行った。




「五球!」

三橋はいつものようにボールを投げるが、阿部のミットは大きく横に動き、コントロールが全く定まっていない。どうやら相当びびってしまっているようだ。よく見ると、三橋はやたらとキョロキョロしていて視線が合わない。一体何をそんなに警戒しているのか、そう思い名前も三橋と同じようにキョロキョロしてみた。すると向かい側から三星の選手がぞろぞろとやってくるのがわかった。

「あ、来た…って、あれ?」

さっきまでいたはずの三橋がいない。やはり三星の選手と顔を合わせたく無かったのだろう、一目散に逃げてしまった。しかしそれでは試合ができない。そう思い、様子を見に行こうかとしていた矢先、阿部がすかさず後を追いかけたのが名前の視界に映った。

「……私も行こうかな」

若干ベンチの方も気になったが、やはり選手が心配だ。名前は篠岡にごめん、とだけ呟き、阿部達を追って行った。




「──…腕──…よかったか?」

歩いて行くにつれ、だんだん言葉が途切れ途切れに聞こえるようになってきた。目的地は近いのだろう。名前はそのまま足を運んだのだが、いきなり口を塞がれ、行く手を阻まれてしまった。あまりにも突然過ぎて、言葉が出ない。かわりに反射的に動いた手で自分の口を塞いでいる手を剥がそうと試みた。しかし全く剥がれる気配はない。どうしようかと思っていたら、耳元で聞き覚えのある声がした。


「しーっ。静かに。俺が行ってくるから」

正体は阿部だった。名前は一気に力が抜け、その場にへたりこんだ。

「おっと…大丈夫か?」
「はぁ…はぁ…死ぬかと思った…」
「ごめんごめん。とっさに手が出てた」

とっさに口を塞ぐとは全く勘弁してほしいものだ。驚かせるにも程がある。そう文句を言ってやりたいところだが、早く行かないと三橋が可哀想だ。そう思い、名前は口を閉ざした。





それから阿部の説得…もとい慰めが行われた。しかしなかなか聞き入れてくれない三橋。なんとも強情な彼に、どうしたものかと考えた末、阿部は監督に言われたことをハッと思い出して監督が自分にしてくれた通りに三橋の手を握った。

「大丈夫!お前はいい投手だよ!」

その言葉で三橋は顔をあげる。

「うう……っ…ウソだぁ…」
「いい投手だよ!」
「ウソです…っ」
「いい投手だって!」
「ウソだぁ……っ」

これはなかなか頑固。
三橋は良くなるどころかますます泣き出す始末。阿部もそろそろ限界なのでは、と怒鳴り始める彼を想像していた名前は、全くの別の方向に陥った彼に驚くこととなる。そう、いきなり阿部が泣き出したのだ。あまりに急だったので名前はおろか、三橋までもが目を見張ってしまった。

「お前はいい投手だよ。……投手としてじゃなくても俺はお前が好きだよ!」
「……」
「だってお前…頑張ってんだもん!!」


この言葉は本心で言っている。それは阿部の表情を見れば一目瞭然だった。

「俺…頑張ってるって……思う?」

三橋がポツリと呟いた。

「思う」
「俺…俺…ピッチャー好きなんだ」
「わかるよ」

言葉に三橋は嬉しそうな表情を浮かべた。ようやく少し、二人の距離は縮まったようだ。名前は安堵のため息をつき、その場から立ち上がった。

「俺…俺もっ阿部君がスキだ!」
「………どーも」


三橋がそう言い終えた時に、名前は二人が繋いでいる手の上にそっと自分の手を添えた。そして阿部の方を向いて、言ってやった。

「私もっ阿部君がスキだ!」
「……オメー…おちょくってんのか」
「ぷっくく…え、何が?」
「クソが…」

意地悪心に火がついて、つい言ってしまったが、阿部の反応は本当に面白い。名前は暫く彼等の手を握った後、スッと立ち上がった。

「さ、行こう。みんな待ってるよ」
「後で覚えとけよ」
「はいはい」

まだお怒りモードの阿部を残し、名前は三橋を連れて、先に走り出した。





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