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「名前、ここ座れ」

部屋に入ってそうそう、阿部は据え置きタイプの小さめな鏡の前に座らせた。何をするかと思えば、徐に棚からドライヤーを取り出し、コンセントをさす。

「乾かしてくれるの?」
「ああ、何か、そんな気分」

そう言うと阿部はスイッチを入れ、名前の髪に翳す。風に煽られて、更に阿部の手によって髪がぐちゃぐちゃにされる。だけど、全然強くもなく、乱暴でもなく。ただ優しく扱ってくれた。名前はその気持ちよさに、目を細める。

「…私、今偉くなった気分」
「調子にのるんじゃねー」
「そのくらい、気持ちがいいもん」
「ふーん」
「今度、やったげよっか」
「今度な」

次第に、ぐちゃぐちゃになった髪の毛を丁寧に整え始めた。

「よし、できた」
「ありがとー」

そのあとすぐに、ドライヤーを止めた。阿部はコンセントを抜き、元あった場所にそれを戻す。最後にポンと頭を一撫でしたら、柔らかい笑みが返ってきた。

「…あ、そうだ名前。一つ頼みたいことがあるんだけど」
「何?」
「今日文化祭で着てたやつ、もう一回着てくれ」
「え、あの浴衣?」
「そう。今日持って帰って来てるんだろ」
「そりゃクリーニング出さなきゃいけないから持って帰ってきてはいるけど…でもやだなぁ、せっかくお風呂入ったのに」
「ちょっと着るだけでいい」
「…すぐ脱ぐよ?」
「構わねぇ」
「じゃ、後ろ向いてて」
「気にするな」
「や、今ノーブラだしはめ直さなきゃいけないしとにかく、ね」
「最近あんまり気にしねーじゃねぇか」
「その場のシチュエーションって言うか、色々あるの」
「ふぅん、まあいいけど」

そう返事をして、阿部は名前に背を向ける感じで携帯をいじり始めた。
ほどなくして、着替え終わった名前が阿部に声をかけると、ゆっくりと振り返った。

「着たよ」
「おー」
「で?」
「ちょっと待ってろ」

阿部の要望で着替えたのだから、てっきり何か言ってくれるものだと思ってた名前は、無頓着な性格を表したようなその態度に怪訝そうな顔をした。終いには携帯を再びいじり出すもんだから、うっすら殺意を覚えたと言っても過言ではない。
何だ、せっかく着替えたのに。
そう文句を言おうとした途端、いきなりのシャッター音にそれを遮られてしまった。

「……な、」
「お、綺麗に撮れたな」
「何…急に…」

携帯を再びいじったのはカメラを起動していた、というのは理解できたが、その行動の理由は未だに理解出来ない。

「ちょっと頼まれてな」
「写真撮れって?」
「ああ、文化祭いけなかったから撮って送ってくれって……隆司さんが」

そこでようやく、合点がいった。

「もしかしてさっきの電話で…」
「隆司さん喜ぶぞ、きっと」
「……いや、喜んでくれるのは嬉しいけど、何か複雑」
「会社の人に見せびらかすってよ」
「もう送ったの!?っていうか返事はや…」

ほら、と携帯を見せられたので覗き込めば、確かにそう書いてあった。しかも不自然な程にテンションが高い気がする。顔文字の他に絵文字も使ってあるし、それが動いてる。カラフルな星が二つ交互に浮き出るようにして動いていた。正直、叩(はた)きたい。

「絶対飲んでる。しかも一人じゃない。絶対」
「確かに珍しいわな」
「もー…隆也、見せびらかすのだけは止めてって言っておいて」
「へいへい」

結局自分は隆司の為にわざわざ着たのか、と名前は深くため息をついた。少しだけ、期待していたのだ。少しだけ。今日まだ阿部からは言われていない言葉をくれるのではないか、と。我ながらくだらないことを期待していたんだな、と自嘲の笑いを浮かべながら着物を脱ごうと手をかける。すると。

「あ、ストップ」

慌てて名前のいる所まで歩いてきた阿部が、脱ごうとする手を掴んで停止させる。

「…隆也?」
「言い忘れてた。似合ってるぞ」
「………」
「…おい、名前?」

一瞬心の声が洩れていたのかと思った。

「…もしかして…聞こえてた…?」
「は?何が」
「私、今何か喋ってた?」
「いや?」

どうやら違ったみたいだ。と言うことは、さっきの言葉は阿部のそのままの気持ち、ということになる。名前は嬉しさと可笑しさで、小さく笑みを零してしまった。

「…ふふ、私…バカだな…ちょっと恥ずかしい」
「急にどうした?」
「ううん、なんでもない。ありがとう、嬉しい。似合うって言ってくれて」
「文化祭ん時は言えなかったからな」
「うん、ちょっと、ほっとした」
「ほっと?……あ、お前もしかして俺が似合わねーとか言うと思ってたのか?」
「そうじゃないよ。好きな人から言われるのって…やっぱり違うなって。嬉しい」

ふわり、と微笑む名前。
可愛い。この言葉が阿部の脳内を駆け巡った。

「名前、何だお前…やべえぞ」
「何が?」
「いや…ホント…ああくそ、可愛い」

名前の背後にあった壁に彼女を押し付け、唇を重ねる。いきなりのことで名前は目を瞑るタイミングすら逃してしまったが、そっと頬を滑らせて耳の後ろにまわった阿部の手に気がつき、そっと目を閉じた。

「……ん」

思ったより激しくない口付けだったが、阿部が唇を離してすぐ、彼は名前の首筋に歯を立ててきたのでさすがに驚いた。

「ちょ、んっ…」
「悪い、脱がす」
「え、えええちょっと…っ」

手始めに襟元を大きく開かれ、そこに現れた肌の上を、阿部の唇や舌が通過する。

「ふっ…ん、んっ…」

気付けば帯も緩められ、前の方はあっという間にはだけてしまった。ブラも外され、いよいよ本格的に愛撫が始まる。名前ももうその頃には、阿部に全てを預ける態勢になってしまっていた。

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