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解析が終わり、百合が準備した夕食を皆で平らげて田島と三橋と泉の見送りをした頃に、百合が自室から眠そうに歩いてきた。そろそろ仕事に行く準備をしなくてはいけない時間だ、という気持ちはあるのだがどうにも体の方はまだ睡眠を欲しているようで。そんな矛盾した状態の自分を引きずり、百合はダイニングテーブルの椅子に腰を降ろした。

「…眠そうっすね、百合さん」
「んー…なんかいい感じに眠りの世界に入っていってたら…頭上からアラームが…」
「大丈夫?」
「平気平気。今無理矢理体が起こされた状態なだけだから、しばらくしたら普通になるよ」

阿部と名前が交互に心配そうな様子で声をかける。そんな二人に嬉しそうに笑みを返した百合は、テーブルに用意された自分の夕食をもそもそと食べ始めた。

「隆也、今日どうする?」
「泊まっていきなよ隆也君。っていうかもういっそのことここに住んじゃう?」
「それいいっすね」
「お母さんってば何言って…と言うか隆也も同意しない!」
「いいじゃーん、私全然困んないよ」
「…世の中お母さん中心で回ってるわけじゃないよ」
「ケチケチすんなって」
「いや常識でしょ?」

阿部と百合の二人の相手をするのはさすがに疲れる。ひとまず今日は泊まることにするらしい阿部に、名前はふぅ、と息を吐くと彼の背中を押して二階へ行かせた。

「はいはい、もう先にお風呂入っちゃって。今日シャワーだけど、いいよね。お母さんも急がないと遅刻しちゃうよ」
「嘘、今何時!?」
「もうすぐ八時半」
「ぎゃ、ヤバい」

慌てて残りのご飯を詰め込み、着替えるために部屋へ戻った。阿部も着替えを取りに階段を上る。名前は二人の居なくなったリビングの片付けに取りかかった。姉の琴乃は今日は飲み会だ。なんでも明日は仕事が休みらしく、久々に友達数人と飲みに行くことになったらしい。仕事で飲むわけではないので、帰りは一体いつになるかわからない。ので、当然夕食等は一切準備していない。名前はダイニングテーブルに乗っているもの全てを片付け、洗い物と次の日の為にお米も磨いだ。
それが終わったあたりで、すっかり仕事モードに切り替わった百合が部屋から出てきた。先程と違って化粧もバッチリだし格好もきちんとしたものになっていて、「できる女」オーラ全開だ。

「…さっきと大違いだね」
「当たり前でしょ。あんなだらけた姿は家専用よ」
「ふふ、そっか。行ってらっしゃい」
「うん、戸締まりしっかりね」
「はーい」
「あ、百合さん今から行くんですか」
「うん。隆也君、あとよろしくね」
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」

とうの昔に風呂から上がった阿部は、リビングのソファーに座って今日やった解析をまとめたノートと、名前が個人的にまとめたノートを見直しているところだった。そこで百合が出かけようとしているのに気づき、一旦手を止める。そして百合を見上げ、見送りをしてからまたノートに目を落とした。

「…さてと、じゃあ私もお風呂入ってくるね。隆也まだリビングにいる?」
「ああ、お前があがるまでやっとく」
「何か飲む?冷蔵庫にちょっとアクエリ残ってるけど」
「ん、じゃあ飲む」
「はい、コップとアクエリ。飲み終わったらペットボトル洗ってどこか置いといて」
「はいよ」

ノートが濡れなくて尚且つ阿部の手が届く所にペットボトルとコップを置く。それから着替えを持って、名前は風呂場へ向かった。




お風呂から上がって脱衣所で体を拭いていると、リビングの方から阿部の声が聞こえた。何か喋っているようだ。誰か来たのかと耳をすませたが、彼一人の声しか聞こえない。おそらく、電話だ。こんな時間に珍しいな、とタオルで髪をまとめ上げ、下着を身に付ける。すると、不意に自分の名前が聞こえて手が止まった。

「───…はい、そうなんですよ。あ、名前にかわりましょうか?今風呂上がったみたいですけど」

え、もしかしてこちらに来るのだろうか。名前は慌ててTシャツとショートパンツに着替えた。しかし、電話の相手方がどうやら断ったようで、名前は急ぎ損となってしまった。

「ええ、いいですよ。はい、あはは、お休みなさい」

途切れた会話と共に、携帯をテーブルの上に置く音が聞こえた。

「…電話?」
「ああ、隆司さん。琴乃さんが飲み行ってっから暇なんだと」
「あはは、ホントあの二人ラブラブだよねぇ。付き合い始めてから結構経つけど、未だ衰えず…って感じ」
「良いことじゃねーか」
「そうだねぇ」
「おら、風呂出たなら上行くぞ」
「はーい」
「お前ドライヤーは?」
「私の部屋ー」

リビングの電気を消して、一応琴乃が帰ってきた時のことを考えて玄関の電気だけつけておく。それから二人は名前の部屋へと上がっていった。

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