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≫復活と対策1







「ただいま」
「お邪魔しまーす」
「名前ん家二回目だな!」
「お、お邪魔…します…」

午後四時少し前。泉、田島、三橋、阿部、そして名前がガヤガヤと玄関の扉をくぐった。一応母親には連絡を入れてあったので、百合も驚くことなく出迎える。リビングにはもう既に飲み物や軽い食べ物等が準備されていて、部屋も寒すぎない程度に冷やしてあった。

「いらっしゃい。私、自分の部屋にいるから何かあったら呼んでね」
「うん、わかった」

それぞれが軽く挨拶を済ますと、百合は自分の部屋へと消えていった。これから少し、仮眠をとるのだろう。

「っと、ごめん先に準備してて。私荷物置いてくる」
「おー」

バタバタと階段を駆け上がる名前を横目に、阿部は早速テレビを付けた。テーブルにノートを広げ、飲み物を全員に注ぎ分ける。その間にも田島はあちこち動き回って探索しようとするので、それを止めるのに泉が必死だし、三橋は三橋で、いつも以上に緊張しているように見受けられた。

「お待たせ、始めよっか」

名前が阿部の隣に腰を下ろしたところで、ようやく解析が始まった。録画したものを、ひとまず全員で見る。


約二時間後、一試合終わった所で停止して、皆は意見を言い合った。

「秋大もARC戦で出た二年捕手がレギュラーやんだろうが…正直どう思った?」
「あー、そういや同中なんだよな」

そう言って飲み物に口を付ける田島。それを見て、名前は自分用のノートを開いた。

「あ、少しなら情報持ってるよ。秋丸恭平、右投右打。榛名さんとは幼なじみで中学の部活でも同じチームだったみたい。武蔵野ではやっぱり榛名さんの全力投球を唯一捕れる人で、ARCの時もそれが目的で交代したって。でも本人にやる気が殆ど感じられないらしくて、バッティングはこの間見た通りだし、サインも全く出さないから榛名さんの壁と言っても過言じゃない…らしい」
「やっぱサイン出してねーんだ」
「お前よくそんなん知ってたな。榛名から聞いたのか?」
「んー…それもあるけど……趣味、かな」

阿部と同じような趣味を持っていることに、我ながら面白いなと薄く笑う名前。それを見て阿部は他にないのか、と名前のノートをペラペラと捲り始めた。

「つーことは、昔っから榛名の球受けてたからサインもいらねーってことか」
「んー…そうじゃなくてもできなくはない、かもよ?速球くると思って待ってればあの変化球なら捕れっかも。球種は投げた瞬間わかるし」
「そりゃオメーが特殊なんだよ」

田島の意見に泉が突っ込む。しかしそれが正論だろう。余程目が良くないと、田島の言った事は殆ど無理に等しい。そういう事から考えると、阿部の意見がどちらかと言えば納得がいくかもしれない。それでも俄かには信じがたいが。

「まぁ…サイン出してようが出してなかろうがどうでもいーっちゃどうでもいいけど。とにかく、榛名の全力投球受けれるっつーことは秋は確実に球速増すだろうし、あと、ちょい動く変化球も投げてくるだろうな」
「そうだよなー。そうだ名字、新人戦はどこに負けたんだっけ」
「大宮寿だよ。掲示板見る限りじゃ、四死球がらみで点取られてるみたいなの」
「んじゃエラーは?スタメンごっそり抜けてんだろ」
「えっとね…」

田島の質問に答えようとしたが、生憎ノートは未だ阿部の手中にあった。「返して」と手を伸ばしたところで、まだダメだと言わんばかりにノートを持ち上げられる。お互いに座ってはいるが、若干阿部の持つノートに手が届かない。挙げ句の果てには台詞まで取られた。いや別に誰が言ってもいいのだけれど。

「三対二、ヒット六本でノーエラーだった」
「マジでー」
「四死球待つか」
「それもありだ」

名前が一生懸命腕を伸ばしているこの状況には一切反応せず、三人は会話を続ける。さすがに、会話をしながらも名前で遊んでいる阿部には彼女も悲しくなって、ノートを取り戻すのを諦めて、会話に参加した。それを見かねて阿部も腕を下ろす。

「プレッシャーかけて、四死球でもエラーでも塁に出る。あの捕手なら走り回れるだろ」
「うーん、でも144キロが必殺じゃプレッシャーかけらんないな」
「そう言えば、久喜に150キロ打てるバッティングセンターあるよ?目が慣れてたら速球はなんとか当てられそう…」

名前の案に、皆が乗り気になる。

「お、マジで」
「久喜って電車で三十分くらいか」
「確かその位だったはず…」
「部活の後行けるな」
「じゃあ小遣い貰ってみんなでゴーだ!」
「うしっ!」

ということで、榛名対策は一応そういう事になった。こっちにはあまり武蔵野の秋大レギュラーのデータがない為、出来ることは全てやろう、という気構えが重要である。そう考えると、久喜に毎日行くことぐらい、皆には造作もないことだった。

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