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「あー…あつ…」

お風呂から上がり、二人は部屋に戻った。若干のぼせてしまった名前は、部屋に入るなりベッドへダイブする。

「オメーがはしゃぐからのぼせんだよ」
「はしゃいでない!くすぐったかっただけよ」
「俺が横腹ちょっと洗っただけで面白ェぐらい体捩らせてたもんな」
「だから体は自分で洗うって言ったのに…」
「だっていっつも背中だけじゃねーか。たまには俺も洗わせろよ」
「全力で拒否します」

まだ少し気怠い体をゆっくり起こし、名前は床に足をつけた。

「隆也、ストレッチしよ」
「お、やってくれんの?助かる」
「今日は私もやりたい」
「…そういやお前体固かったっけ」
「……うん…まぁそこそこ」
「そりゃやりがいがあるな」

悪い笑みを浮かべて床に座る阿部に、一体何をされるのかと名前は顔を引きつらせた。なんとなく、身の危険を感じる。

「どっちからするか?」
「隆也からで」

即答だった。







「はい、いーちにーさーんしーごー…」

患部に絶対に負担がかからないよう、細心の注意を払う。しかしそればかり気にし過ぎて、他の部分に変な力が入り壊してしまう可能性も頭に入れておかなくてはならない。怪我人のストレッチは一筋縄ではいかないので、他者の、元い名前の協力は必要不可欠であった。

「名前、もちっと押しても平気」
「ん、このくらい?」
「おう、そんくらい」
「はい、じゃあもう一回。息吐いて…いーちにーさーん…」

緩急付けずに丁寧にやっていく。三橋程ではないが、怪我をして、より一層ストレッチやトレーニングをやるようになって阿部も柔軟さが出てきた。

「はい、終わり」
「ふー…よし次名前の番な」

パッと体を離すと、阿部が自分の横に座るように促した。

「…と、ちょっと待った。下なんか履かねーとやりにくいな。足広げた時見えんだろ」
「いつもなら気にしないって言うのに珍しいね」
「や、見えた時なんか妙な気分になりそうで怖ェ」

今日はヤるつもりねーからなぁ、と何やら洋服箪笥をゴソゴソし始めた。どうやら、すぐにやれる環境ではない、イコール我慢しなければいけない状況であればあるほど、そういうものに敏感になってしまうらしい。

「ふーん…大変ねぇ」
「膝、もう少しで完璧になっからな。今は我慢しねぇと」
「その調子でこれからも落ち着いてくれるといいけどね」
「やだ。つかそんなに俺がっついてねーだろ」

そう言いながら、阿部は名前の前に一枚の半ズボンを持ってきた。

「…ほれ、これ取りあえず履いとけ。座ってりゃずり落ちたりもしねーだろ」

言われるがままに、名前はそのズボンを履いた。一応少し小さめを選んでくれたのか、立って歩いたりしなければずり落ちない程度のもので、長さも半ズボンだったから七分丈で収まった。

「はい、前屈」

力を抜いて、息を吐きながら足のつま先を目指す。が、あと数センチのところで限界が来てしまった。すると、横に座っていた阿部が腕一本で背中を押しにかかる。

「いたたたたっ」
「おま、固くなったな…」
「と、取りあえず離して、裂ける…っ」
「裂けねーよ」

と言いながらも力を抜いてくれた阿部に、名前は安堵する。しかしこのままでは益々固くなってしまうので、もう一度体を倒した。やはり毎日の積み重ねは大事だな、と改めて考えさせられる瞬間であった。





ストレッチを終えて、二人は明日に備えベッドに潜り込んだ。タオルケット一枚を平等に、腹部にかける。

「…あ、そういや名前」
「なに」
「お前、モモカンに言ったのか?」
「………?」

唐突な質問の割にはやけに言葉が少なく、名前は勿論一度で理解する事はできなかった。簡素、と言えば聞こえはいいかもしれないが、些か必要な部分まで削られてしまっている気がする。

「ああ、わかんねーか。ほら、この間の合宿ん時言ってただろ?トレーナーとマネージャーのこと」
「ん?あっ、それね、その事ね」
「聞いてみたんだろ?」
「うん」

ようやく、ピンときた。
甲子園に行く前に行われた約一週間の合宿中、マネージャーでありながらもトレーナーとしての仕事も増えてきたことに対して、名前は悩んでいた。そんな時に阿部が、監督に相談する事をお勧めしたのを、今思い出したのだ。

「私が、トレーナーとしての仕事ももう少し真剣にやっていきたいって話したら、監督…喜んでくれた」
「そうか…」

阿部は、ふと表情を和らげた。それを見て名前も嬉しそうに笑った。

「今後、千代ちゃんとも相談して、マネージャーの仕事をきちんと割り振っていこうと思ってる。と、言ってもその時その時の状況によっては臨機応変に対応していかなくちゃいけないけど」
「それでも…良かったな。前よりは確実にトレーナーの仕事に集中できるじゃねーか。俺らも助かる」
「ふふ、それなら嬉しいけどね」
「嘘なんか言わねーよ」
「ありがと。頑張るよ」
「おう。一緒に頑張ってこーぜ」

一緒に。

この言葉がどんなに嬉しいことか。名前はついつい本能のままに阿部に抱きついた。阿部も、そんな彼女を優しく抱きしめ返す。腰に手を回して、グイッと体を密着させた。

「…それで?取りあえずやることとか決まってんのか」
「そんなに今までと変わらないよ。ちょっとずつやってくつもり。トレーナーの主な仕事って、運動強化と怪我の予防や回復、精神的な指導なんだよね。でもメンタルトレーニングは志賀先生がやってくれてるし、私がやれることはメディカルチェックとか、怪我の回復に向けてのストレッチやマッサージ…そしてトレーニングメニューの組み立てかな。これは監督と一緒にやることになるけど」
「…結構あんだな…仕事」
「そう?でも志賀先生と監督とも協力しながらだから大丈夫だよ」
「無理すんなよ」

少し心配そうに彼女の頭に手を回した阿部に、名前はにこりと笑い彼を見上げた。



「その言葉、そのままバットで打ち返すよ」







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