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≫これからの1








次の日の夜、西浦ナインはようやく埼玉へと帰ってきた。バスを降りた皆は、思い思いに凝り固まった体をのばし、監督の指示を仰ぐ。そしてそれからすぐに、解散となった。

「名前、今日どうする。俺ん家来るか」
「そうする。下着も取りに行きたいし」
「じゃあ母さんに電話するぞ」
「はーい」

阿部の電話が終わるまで、名前は皆に手を振って別れを告げていた。殆どの人が自転車で来ている為、周りはあっという間に静かになる。

「名前ーまたなー」
「また明日ねー。三橋君も、気をつけて」
「う、うん…っ」
「あれ、名字帰らねーの?」
「私達帰る足がないから隆也のお母さん待ち。電車で帰ってもいいけど隆也がねー。私もさすがに二人分荷物もってはキツいな…」
「そうか。んじゃなー」
「また明日ー泉君」

九組トリオがいなくなった所で、阿部の通話が終了した。

「今から家出るってさ」
「じゃあ…あと二十分くらいかな」

携帯で時間を確認しながら名前は阿部を見上げた。

「どっか座る?立ったままじゃ辛いでしょ」
「いいよここで。適当に座る」
「制服汚れるよー」
「後で払う」

そう言って近くの段差に腰掛けた阿部。その横に名前も腰掛けて、ただひたすらに迎えの車を待った。


待つこと約二十分。目の前に阿部母の車が現れた。

「お待たせー」

窓から顔を出して謝罪する阿部母こと、美佐枝を見て、阿部は特に何も言わずに立ち上がった。それに続いて名前も二人分の荷物を持って立ち上がる。先に車に乗り込んだ阿部は座席から名前の持つ荷物を受け取って、自分の横に置いた。

「名前ちゃんもゴメンねー待たせた上に荷物まで」
「そんな…気にしないでください。それより、今日お邪魔しても大丈夫ですか?」
「何言ってるの今更!うちはいつでも大丈夫なんだからこれからも遠慮なんかしないでどんどん家に泊まりに来てよ。シュンちゃんもお父さんも喜ぶわ」
「ありがとうございます」

名前も早速車に乗り込んだ。阿部との間に自分の荷物も置いたところで、ようやく車も出発した。







阿部の家へ到着し、中へ入るとリビングには既に父親の隆も部屋着に着替えてくつろいでいた。ソファーにはシュンもいる。いつものごとくゲームでもしているのだろう、名前達が帰ってきたことに気付くまで少し時間がかかった。

「こんばんは」
「おお、名前ちゃん久しぶりだな!」
「そういえばそうですね。この間3日間泊まった時おじさん居なかったですもんね」
「そうなんだよー。ほら、座れ座れ。まだ飯食ってないんだろ?」
「は、はい」

いつにも増して機嫌のいい隆。だいぶ酔いが回っているようだ。名前は小さく会釈すると、目の前の椅子に腰を下ろした。

「俺、先に着替えてくる」
「うん、あっ、荷物…」
「あー、洗濯機に放り込むだけだから平気」

そう言ってヒョコヒョコとリビングを出て行った阿部を、名前は心配そうに見つめていた。しかしそんな心配も余所に、阿部はあっという間に着替えまで済ませてリビングに戻ってきた。

「足、もう随分よくなったみたいね」
「おー、もう走れそう」
「…走ったりなんかしたら私が後ろから刺すよ」
「怖ェよ…ったく、冗談だっつの」
「まぁ、知ってるけど」
「…のやろ」

ピクリと顔を引きつらせる阿部に苦笑しながらご飯に口をつける名前。阿部も阿部で、すぐに切り替えてご飯を口に運んだ。すると、そんな二人を見ていた隆が徐に口を開く。

「隆也達ってもうすぐ一年か?」
「は、何が」

小さく動きを止めて、阿部は父親を見た。

「だから、付き合い始めて一年かって聞いてんの」
「いや、もう一年経ったよな?」
「うん、四月で一年だから…」

確認をとる為に名前にも視線を向ければ、彼女は視線を合わせて一度頷いた。

「ほぉー…もうそんなになるのか。名前ちゃん、ありがとな」
「?」
「ちょっと…それどういう意味」
「どういう意味も何も、お前とこんなに長く付き合ってくれてんだぞ?有り難いだろうが」
「いや、まぁそうだけどさ…」
「逃がすなよ?」
「あ、あの…ちょっ…」

勝手に二人だけで話がポンポン進んで行きそうだったので、名前は慌てて会話に入った。別に不快感を覚えただとかそういうわけではない。ただ単にくすぐったかっただけなのだ。

「そ、そろそろ上行きますね、おやすみなさい!」
「ええー、照れちゃって可愛いねぇ」
「親父酔いすぎじゃねーの今日」
「そうですよ。おじさん、お酒はほどほどにしてくださいね」
「はいよー」

ひらひらと手を振って上機嫌で返事をする隆。それに応えて名前は食器を阿部の分まで片付け、美佐枝にもお礼を言って、ようやく二人で二階に上がった。

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