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≫合同練習1





翌朝六時。西浦メンバーは、今日から練習に参加させてもらう桃李高校のグラウンドに到着していた。そこにはライト等の設備がしっかりており、近くに行けば行くほどグラウンドの立派さが身に沁みた。

「西浦高校さん、こちらへどうぞ」

桃李高校の選手に案内され、二階建ての建物へとやってきた。そこでどうやら着替えるらしいが、監督とマネージャーは別室らしく、名前達はその部屋に足を踏み入れてすぐ退室となった。
一旦登った階段を降りる途中。名前はふと一階の窓から凄い物を発見して、勢いよくその窓に駆け寄った。

「か、監督…凄いですよこの器具とマシン…」
「ホント、贅沢ねぇ」
「西浦も欲しいなー」
「あはは、公立じゃあ無理無理」
「あー…いーなー」
「ほら行くよ、名前ちゃん」
「はーい」

いろんな器具やマシンが取り揃えてある部屋に名残惜しそうな視線を向けつつ、三人はその場を離れた。

桃李高校。
元女子高で、二十年前共学になる際、専用グラウンド付きで野球部を創部した。その時招へいした山室監督の手腕で、なんと二年目にして甲子園出場。三年生無しでベスト8に残った桃李は一気に有名になった。その後も春夏何回かずつ甲子園には出場したが、山室監督引退後は一回も甲子園には出場できないでいる。
対して波里は、愛媛県屈指の進学校でスポーツ特待もなく、普通に受験した人達が野球をやっているにも関わらず甲子園出場は県内最多というまさに文武両道のエリート高である。

そんなこんなで始まった合同練習。桃李の監督から軽く説明があったあと、ポジションごとの班に分かれて各々が自己紹介等をこなした。その後は、早速ティーに移る。片付けも含めて約一時間のティーバッティングを行うため、テキパキと予定は進められた。ティーバッティングは内野とランナーもつけたミニゲーム形式。ここでまず驚くべきことは、グラウンド内に内野を九個分とれることと、あともう一つ。

「…コーチ陣声凄いな…」

そう、コーチ陣の気合いだった。
マネージャー含む朝食係数人の内の一人、阿部も味噌汁を注ぎながら静かに感心する。確かに選手が大勢いる場合、指導者側も手分けが必要となる。西浦も新入生が来たら監督一人では厳しいかもしれない。そんなことを不意に考える。

「…これからもっと名前の役割が大事になってくっかもな…つーかマネジも足りねーだろ。名前はトレーナーとしての仕事が明らかに増えるだろうし、そしたら篠岡一人。絶対上手く回らねーわな」

少し離れたところで篠岡と朝食の準備を進めている名前に視線を向けながら、小さく言葉を洩らした。

「どーしたボーッとして」
「え、」
「これでお椀最後やで。味噌汁足るけ?」
「あ、ああ大丈夫そう」

急に後ろから現れた同じ朝食係の選手。阿部はハッと我に返り、慌てて止まっていた手を動かし始めた。

「…ところで、マネ可愛いっすね」
「……………はァ」
「誰かの彼女だったりするん?」
「………えーと…違う…と思う」
「ちゃうんかー…髪おろしてる子も違うん?」
「(名前のことか?)……お……違う…かな」
「そっかーあんなに可愛いのにな」
「……はァ」

一瞬、俺と…と言おうか迷ったが、この状況で根掘り葉掘り聞かれるのも厄介だし面倒なので、ここはもう誰の彼女でもないことにしてしまおうと、阿部は適当にその場を流した。

「確か波里もマネ三人おって誰とも付き合うてへんて言うとったし案外そういうもんなんかな」
「そのマネは?」
「今回は来てへんて…!」
「残念…見たかったわ。何でうちは女マネおらんのかなー!寿浩じゃどもならんわ!」
「確かになー!」

笑い混じりにその選手二人が言った途端、例の桃李のマネージャーが現れた。

「しょーもないこと言ってんとはよせー!ティー終わんで!ほら、西浦のマネージャーさんも洗い物終わらへんて困ってるやろが!」
「あー!いつのまにそんな仲良くなってん寿浩!」
「ちゃうわ!いーからはよせー!」

寿浩の後ろで苦笑いを浮かべる名前と篠岡。

「あ、はは…取りあえず空いた鍋類全部持ってっていいですか?」
「は、はい!すんません、どうぞ!あっ、持って行きましょーか!?」
「いえ、大丈夫ですよー」
「はいっ」

女マネに慣れてないのか何なのか、態度が全然違う二人。そんな選手を横目に、たった今自分の手元にある鍋が空いたので、阿部は立ち去ろうとする名前を呼び止めた。

「あ、えっと……名字!」
「は……?」

案の定というか何というか、驚いた顔で振り向く名前。しかしここで詳しく説明するわけにもいかないので、阿部は一か八かでもう一度しっかりと名前を呼んだ。

「……名字」
「あっ……えと…何、阿部君」

どうやら何となく事情は察してくれたようで、名前は阿部の計画に参加した。

「悪い、これも空いたから持ってってくれ」
「わかった。お玉もいい?」
「ああ」

名前はスルリと阿部の手から鍋とお玉を受け取り、篠岡を追って室内へと入っていった。



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