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「#寸止め」のBL小説を読む
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田島達から数メートル離れた所で、高瀬は足を止めた。それに伴って名前も足を止め、高瀬を見上げる。

「お久しぶりですね、高瀬さん」
「あ、ああ久しぶり」
「ふふ、元気になったみたいで良かったです」
「え、俺何か名字さんに言ったっけ」
「大会終わってから、メールしたじゃないですか」
「あ…そう言えばそうだった!」
「…やっぱり少し元気がないなぁとメールでも感じていたので、西浦にいる私が言うのもあれなんですが、心配してたんですよ?本当に、元気になったみたいで良かったです」

そう言って微笑むと、高瀬は先程まで硬かった表情が和らいだ。田島に向けていた表情とは随分と違う。

「俺、あの試合から結構落ち込んでてさ」
「責任感じて?」
「う、ん…まぁ…。でもしばらくして和さんが来てくれて…」
「言葉を……貰ったんですね…」
「ああ」

名前の瞳を真っ直ぐ見つめ、頷いた。が、すぐに恥ずかしくなったのか慌てて視線を逸らす。

「あの、高瀬さん」
「えっ、あっ、はい?」

一人だけテンパっている高瀬とは裏腹に特に何のアクションもない名前が、唐突に彼の名を呼んだ。そのため高瀬は先程逸らした視線を再び戻さざるを得ない状況下に陥った。

「さっき呼ばれて気付いたんですが…」
「…何?名字さん」
「その、名字にさん付け…良かったら変えて、別の呼び方で呼んでくれませんか?」
「えっ…と…例えば…」
「や、何でもいいんですけどね。とにかく私…何か名字にさん付けが慣れてなくて…それに、高瀬さん年上なんですから私なんかに気を使うこと無いですし…」
「じゃあ……名前………」
「………」

一瞬二人の間に沈黙が流れた。と言っても、名前が一方的に口を閉ざしてしまった訳なのだが、そんな彼女に驚いて、高瀬は慌てて言葉を付け足した。

「あっ、悪い…っ、俺ンとこ下の名前か渾名で呼び合ってるもんだからつい…!」

少し頬を赤くする高瀬に、名前は次第に表情を和らげた。

「あははっ、すみません。少しびっくりしただけなので気にしないで下さい」
「や、ホントごめん。名字って呼ぶよ」
「いえ、良かったら名前で。その方が何か仲良くなれた感じが増しますし、高瀬さんも下の名前で呼ぶ方が慣れてるし楽でしょう?」
「まぁ…じゃあ…名前で」
「はい」

ニッコリと笑顔を向ける名前に対して、高瀬は先程からドキドキしっぱなしである。まさか名前を呼び捨てに出来る日がくるなんて。そんな嬉しさと緊張で、高瀬は何となく体がむず痒く感じた。
─────名前…名前…
心の中で彼女の名前を何度か復唱していると、目の前にいる名前の携帯が震えた。彼女は一旦高瀬を見、すみませんとだけ告げて、携帯を耳に当てた。

「はい、もしも…」
『お前どこにいんだよ!』
「えっ、通路…」
『通路ォ?おま、それじゃ範囲広すぎんだろーが』

電話の相手は、阿部だった。少しだけ切羽詰まっているような声音である。

『はぁ…まあいいや、とにかく早く戻ってこい。田島ももう戻って来てんだから』
「えっ、嘘」
『嘘ついてどーすんだ。とにかく早くな』
「うん、わかったありがと」

プツンと切れる音と共に、名前は携帯を閉じた。

「すみません、もう行かないと…」
「ああ、そっかごめん。引き止めちまって」
「いえ、お話出来て楽しかったです」
「俺も。ありがと」
「ではまた」

急ぎ足でその場を離れる名前。その後ろ姿をしばらく見送り、高瀬は軽い足取りで仲間の元へと戻った。




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