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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

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「隆也、お風呂は入ったんだよね?」
「おお、家で入ってきた」

阿部の夕食が済み、再び彼女の部屋に戻ってきた二人は、取りあえずベッドの上に腰をおろした。

「じゃ、私ちょっとお風呂入ってくるね」
「ああ」

さっさと準備を済ませ、脱衣場へ向かった名前を視線で見送り、阿部はベッドに両足を乗せて枕元の背もたれに体を預けた。そして読みかけだったスポーツ雑誌を手に取り、パラパラとページを捲る。

「……はぁー……」

しかしふと、ページを捲る手を止めて瞼をおろした。頭に入って来ないのだ。雑誌の内容が。原因として考えられるのはやはり榛名のことだろう。

「……なんだかなぁ…」

いくら和解したとはいえ、まだまだ疑問に思う点が幾つかある。しかしそれは追々納得していくか解決していくしか無い。別にもう榛名の事を心から嫌っている訳ではない、というか寧ろ彼の気持ちも知れて、あんなに(榛名の事を)恨んでいた自分を少しだけ反省した。と思う。
今、三橋とは打ち解け始めていい感じに変わってきている。そんな時に榛名とも話す機会に恵まれ、正直とても充実した合宿ではあった。しかし考えなきゃいけないことが増えたのも事実。元々あの試合での怪我から思うように練習ができず、精神的にも辛いところが多々あった。その上、動けない自分は動けないなりに何をすればいいのか、そんな事を日々考えていたのだ。
つまりは少し大袈裟かもしれないが、頭が、脳がオーバーワーク気味なのだ。出来ることなら誰かに相談して、頭の中を整理させたい。

「…キャッチャーがこんなことでどーするって話だけどなァ……」

弱音を吐くつもりはないが、今は何となく、人肌恋しい…要するに名前のそばにいたかった。

「……名前…」
「なに?」
「うわっ!?」

まさかの返事で、阿部は慌てて目を開けた。どの位目を瞑っていたのか、急な明るさに目を細める。

「…おま、もう上がったのか…」
「もうって…いつも通りに入ってきたけど?」
「マジで…?俺どんだけ考え事してたんだろ…」
「…何か悩み事?」
「いや…まぁちょっとな…」

ベッドに腰掛けた名前を、阿部は自分の元へ手繰り寄せ、右膝の上に座らせた。自然と距離が近くなり、ふわりと彼女からシャンプーの香りがする。それだけでも妙に落ち着いてしまった阿部は、そんな自分に苦笑するしかなかった。

「なぁ…一つだけ聞いていいか」
「うん」
「俺…榛名の邪魔…してなかったよな?」
「邪魔…?」
「シニアでの話な」

若干引きつった笑いで彼女を見れば、名前はなんとも不思議そうな表情で阿部を見つめていた。

「そんな事ない。だって榛名さん言ってたじゃない。隆也のおかげだって。少なくとも邪魔だとは思ってないと思うよ」
「…だよなぁ」
「隆也だって、榛名さんと組めて良かったでしょ?」
「………ああ………そうだな、良かったよ」

ふ、と息を零す阿部。心のどこかでは自分でもそう思っていたのだが、こう人から言われるとまた違った確信が得られる。阿部は無意識のうちに名前を抱きしめてしまっていた。名前も阿部に応えるように、首に腕を回す。

「ねぇ…隆也」
「なんだ」
「私も一つ聞いていい?」
「ああ」
「これからも…今みたいに二人でいられるかな」
「……は、何言って…」

突拍子もない発言に、阿部は目を瞬いた。しかし名前は至って真面目なようで、阿部の首もとに顔を埋めてポツリポツリと呟く。

「…や、ごめん…特に何かあったって訳じゃないんだけどね。ちょっと…思っただけ。隆也にもまた別の彼女が出来たりするのかもなぁって」
「…んなことはその時になってみねーとわからないだろ。もしかしたら俺じゃなくてお前が違う彼氏作るかもしんねーだろうが」
「そうだよね。その時になってみないと何とも言えないよね」
「ああ。でもま、少なくとも今は、お前と別れる気はねーけどな」
「それは私もだよ」

そう名前が言うと、阿部は彼女の腕を解き、自らの唇を名前の口元に寄せた。最初は軽く、次第に深く。

「ん……」

舌先でトントンとノックすれば、唇が薄く開いた。その隙間から舌を割り込ませ、彼女のものと絡めていく。

「んぅ…ふ、」
「ん…は…っ」

強く舌を吸われ、名前はジン…と身体が痺れたのが解った。そんな感覚に次第に力が抜けていく。

「んん…っ、はぁ…んっ…」

何度も何度も角度を変えては絡ませた。名前の口の端からは、飲み込みきれなかった唾液が静かに伝う。

「ん、ふ…ぁ、んっ…ぷは、」

ようやく離され、空気を一気に肺に取り込んだ。阿部も心なしか呼吸が乱れている気がする。

「はぁ…はぁ…あー…熱いよ…」

そう言って名前は、再び彼の首に腕を回した。そんな彼女に、阿部はふ、と笑みを零すとTシャツの中に腕を差し込み、ゆっくりと背中を撫でた。風呂上がりの為ブラはつけておらず、阿部は首の後ろから腰にかけて丁寧に撫でていく。

「…んっ」

くすぐったかったのか、名前が彼の耳元で息を洩らす。それさえも愛しく感じ、まだ身体を離すのは惜しいなと、阿部は暫く彼女に抱きつかれたままでいることにした。
その時。
名前がいきなり彼の首に噛みついた。

「…何してんの」

ガブリ、というよりは「はむはむ」といった感じで、どうにもくすぐったい。しかし名前は一生懸命やっているようで、自然と笑みがこぼれた。

「ちょ、おま…やめろって…」
「んー……」
「ああもう。んな可愛いことすんなっつってんの。襲うぞ」
「……もう襲ってる」
「………」

いや確かにそうなのだが。
とにかく理性の糸が切れてしまう前に、阿部は無理矢理名前を引っ剥がした。

「いきなり何だってんだ」
「……何となく」
「はぁー…もう俺知らねえからな」

そう言うや否や、阿部は名前のTシャツをあっという間に脱がせ、ズボンも脱がせた。

「わっ、ちょ、隆也…っ」
「お前が悪いぞ」
「な、んで…っ、と、とにかく…電気消させて!」

慌ててリモコンに手を伸ばしてスイッチを切った。途端に辺りは暗くなり、窓からカーテン越しに月の光が射し込んでくる。

「…これでもういいな?」

阿部は自分のTシャツも脱ぎ去り、ベッドの下へと落とした。そして彼女の首筋へ唇を寄せる。

「んっ…ぁ…」

一瞬ピクリと身体が跳ねた名前。阿部はそのままつつ──…と唇を下に滑らせ、鎖骨を舌で湿らせた。チロチロと舐めると彼女が小さく声を洩らす。

「…普段あんまり痕とか付けたくねんだけど…」
「…いっ……!?」

阿部の言葉を理解する前に、名前はあまり体験する事のない痛みに驚いた。悲鳴をあげるほどの痛みではないが、どちらにせよ阿部がこんなことをするのはおそらく初めてだ。今度は名前が目を瞬く番となった。

「…今日の俺はどうかしてるわ」
「…隆也?」
「……いっこだけな」

そう言って鎖骨の上辺りにある赤い華を撫でる阿部。その手に自分の手を重ねて、名前は薄く微笑んだ。

「ふふ、今日は二人ともどうかしてるね」
「そうだな」

お互いに笑いあって、先程の続きを開始した。

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