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それからまた暫く阿部の筋肉観察の行われ、彼の熱気も大分落ち着いた頃。ようやく名前の体が離れて、阿部はTシャツを着る機会を得た。

「…お前、筋肉フェチにでもなったわけ?」
「別にそんなんじゃないよ。ただスポーツ選手の体の成長が好きなの」
「トレーナーとしての血が騒ぐってか?」
「あははっ、そこまではいかないけどね。それに…」

名前は笑いながら近くのマシンに腰掛けた。阿部もひょこひょこと彼女の近くに寄り、腰掛ける。

「私の立場はマネージャーなわけだしね」
「つってもお前、トレーナーの仕事やってんじゃん。それって最初の合宿んとき監督に頼まれたからだろ?マネジメントやって欲しいって」
「うーん…マネジメントとトレーナーの役割って少し違う気がするな…スポーツトレーナーとは別にスポーツマネジメントってあるくらいだし」
「…なんかややこしいな」

苦い顔をする阿部に、名前は「まぁね」と少し遠くを見つめた。実際、まだ高校生なのだからそこまで深く考える必要はないのかもしれないが、将来の事を考えたら今の自分の立場をはっきりさせたいというのが今の気持ちだった。初めこそはただなんとなくがむしゃらにやってきたマネージャー業。それにトレーナーとしての仕事が増え、名前自身も正直混乱状態に陥り始めた部分があった。

「…まぁでも、最初は監督もシガポもお前がトレーナーの仕事できるって知らなかったからな。今でこそ知っちまったからそっち系の仕事頼まれてるけど」
「そうなんだよね。まぁ、それが嫌なわけじゃないし、寧ろトレーナーの仕事やれて嬉しい。だけどマネージャーでもあるわけで…」

膝を抱えて縮こまる名前を、阿部は頭を撫でて落ち着かせた。

「名前、これは俺の意見だけど、マネージャーの仕事を少し減らしてその分トレーナーに回したらどうだ?篠岡もいるんだし、お前もその方がもっと専念できるだろ」
「…いいのかな?」
「いいさ、寧ろそっちがうまくいくと思うぞ。お前だって、トレーナーやるの好きだろ?」
「うん…好き」
「これから練習厳しくなって、トレーナーは更に必要になってくる。だからお前の気持ち監督にいったら快く聞き入れてくれると思うけどな」

阿部の言葉に名前は伏せていた頭を上げた。そして阿部の瞳をジッと見つめる。

「ありがとう隆也。最近ちょっと悩んでたんだ。自分の立ち位置がわかんなくなってきて…」
「お前ただでさえ辛いの隠すの上手いんだから、もっと俺を頼れよ?何のために俺がいるんだよ」
「……なんか隆也がかっこいい」
「今更気付いたのか?」
「ふふ、まぁね」
「オイオイ…」

いつの間にか笑って冗談を言い合っていた二人。名前は改めて彼の大切さを深く感じた。

「ありがとう」

名前はそんな気持ちを伝えようと、阿部の首にふわりと抱きつき、耳元に唇を寄せた。そうすると、阿部はお返しとばかりに彼女を強く抱き留めた後、軽く唇を奪った。

「…とりあえず、監督に相談したらオレにも教えてくれよ」
「うん、わかった」

そう言い名前は体を離した。それとほぼ同時に三橋が現れた為、その流れで名前はその場をあとにした。




次の日、見事監督の許可を得た阿部は膝にセーフティーカップをサポーターで巻くという何とも面白い格好でグラウンドに現れた。勿論それをやったのは名前ではない。彼女は許可までは取ったが、後のことは自分でやると断られたのだ。
だが阿部が入った甲斐あってか、なかなか力みが取れなかった三橋が、うまいこと力が抜けている。信頼が成せる技なのか、それとも阿部の怪我を気にしているからなのか。もしくはその両方かもしれない。

「うん、今日の練習試合は振りかぶって投げましょう」

監督からもそう言われ、少しずつだが三橋が良い方向に向かっているのを名前も感じた。

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