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「ったくもーもう少し我慢してよね」

阿部専用のトレーニングを行うため、機械が設置してある部屋に戻った二人。キャッチャー中毒とでもいうような阿部の執着っぷりに、名前はもうため息をつくしかないほどであった。

「いや、だってあいつが振りかぶって投げるっつってるし、四つ目の変化球早くモノにしてぇし…」
「どれをやるにしたって隆也が回復しないと意味がないじゃない」
「だから一球だけって」
「当たったらどうするのよ」
「気をつける!落ちたボールだって拾いに行かねーし!」
「うーん……」

名前は阿部の熱意を受け、少し考え込んだ。なにしろこの合宿中、阿部のトレーニングは名前が面倒を見ることになっているのだ。細かく言えば、全てを見ている訳ではなく、主に阿部のトレーニングの時間でつける時間は一緒について、患部及びその他の部位の様子を見る、いわゆるトレーナーとしての仕事を任されているわけだが、それでもおいそれと返事が出来るような立場でもない。
だからこそ悩んでいた。トレーナーとしては止めるべきだが、マネージャーとして、チームメイトとして、彼女としては是非とも彼の意見を少しでもいいから尊重してあげたい。

「……監督に聞いてみるよ…」
「マジで!?」

悩んだ末、結局監督に相談するのが一番の解決策だという考えに至った。

「だから、今日はちゃんと自分のメニューに戻ってよ?」
「おお!」

先程のテンションとはうって変わって、嬉しそうな阿部。そんな彼に名前もクスリと笑みを零した。




時刻は六時過ぎ。そろそろ他の人達も練習を切り上げて、夕食を食べに戻ってくる頃だ。名前もあれから一旦阿部の元を離れ、父母会に混じっていつものように夕食作りの手伝いをした。主に彼女の役割は献立担当だが、作る方も勿論手伝う。そして少し早めに台所を離れて、トレーニング中の阿部の元に戻って来たところだった。

「…もうすぐご飯だから取りあえず一旦ここで切り上げようか」
「おお……」

その返事と共にゆっくり起き上がる阿部。彼の体からは凄まじい熱気(蒸気)が立ち上っている。

「うわぁ……」
「…んだよ」
「いや…蒸れそうだな、と」
「現在進行形でそうなってると思うぞ」
「窓…は開いてるか。ま、でも風通し悪いしねー」
「あー…気持ちわりぃ」
「取りあえず拭くだけでもやったら?はい、タオル」
「おー、サンキュー」

名前からタオルを受け取った阿部は、汗で張り付いたTシャツを脱ぎ捨て体を拭き始める。しかし、ふと妙な視線を感じて拭く手を止めた。

「…なんだ」

勿論視線の主は名前なわけだが、阿部が尋ねても尚視線を送るのを止めない。それどころか段々近づいてきているのだ。阿部は益々疑問に思う。

「名前?お、おい…」

若干気圧され気味で言葉を漏らすと、ようやく名前が口を開いた。

「…筋肉…触らせて…」
「は、」
「お願い」
「ああ…い、いやちょっと待て!危うく流されるとこだったが…取りあえず何がしたいんだ」
「や、さっき榛名さんの触ったから感触忘れないうちに触りたいなって。隆也ってばまた筋肉増えてる」

そう言って彼の了解を得る前に、名前は腹筋へと手を伸ばした。

「…………」

細い指が阿部の腹筋をなぞる。阿部は無意識の内にその指を目で追ってしまっていた。

「…うーん…なんか…ふわっと感が足りない…」
「…なんだそれ」
「いい筋肉ってこう…もっと柔らかい感じなのよ。榛名さん、どうやって作ったんだろ…凄いな」
「…お前のおかげって言ってたけど?」
「あれはただのお世辞っていうか社交辞令よ」

─────んなバカな。
阿部は彼女の言葉に驚異し、まばたきを繰り返した。

「あの榛名が社交辞令ェ?」
「…失礼よ隆也」
「想像つかねぇ…」

妙な表情をする阿部に、名前は苦笑するしかなかった。阿部からしたら、そう思うのも無理はないと感じたからである。



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