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なんとか誤解だったと判明(?)し、場の空気も幾分穏やかになってきた。

「あ、三橋君。榛名さんに何か聞きたいんじゃなかったの?」

今のうちだ、と名前は三橋の体を押した。

「榛名さん、うちのエースの三橋君。何か聞きたいことがあるらしいです」
「何?」
「あ、あの…あ、き、筋肉…」
「あ?」
「さわっ…触ってもいーですか!」

意外な質問に阿部と名前は驚いた。阿部に至っては何だか申し訳ない気持ちにさえなりつつある。

「いーけど、あんま強くすんなよ。どの辺?」
「か、肩らへん」
「ほら…」

くるりと後ろを向き、自分の肩を指差す榛名。三橋はそこに、ゆっくりと手を伸ばした。

「し、失礼…します…」

触れた途端にふわりとした感触が伝わる。三橋は思わず顔がユルユルになってしまった。

「どーよ?」
「や、や、柔らかい!」
「だろうー?これがいい筋肉なんだぜ?」

嬉しそうに肩を張る榛名に、三橋は尊敬の眼差しを向けた。しかし、尊敬の眼差しを向けているのは三橋だけではなかった。横にいる名前である。彼女もキラキラと目を輝かせ、少しばかり興奮気味である。

「私も触りたい!いいですか?榛名さん!」
「おーいーぞ」

阿部は「お前もか」と、若干苦笑いで見つめているが、榛名は嬉しそうに名前にも肩を差し出した。

「どーよ?」
「柔らかい…凄い…」
「だろー?」

幸せそうに彼の筋肉に触れる名前は、尚も触り続けている。

「これ作れたのも半分お前のおかげなんだぜ?」
「私の?」
「シニアん時お前をずーっとトレーニングにつき合わせてたからな。名前にはホント色々助けてもらったよ」
「いえ、そんな…」
「謙遜すんなよ。今だって俺の専属トレーナーやってもらいたいくらいなんだぞ」
「む、無理ですよ!資格だってないのに…専属なんて…」

顔の前で手を振り、困ったように眉を寄せる名前。榛名は謙遜だと言うが、彼女自身は謙遜なんかではなく本気でそう思っていた。
ただ普通の人より知識が豊富なだけ。
ただそれだけなのだ。勉強は日々怠らないようにしているが、自信は全く持てない。専属なんて夢のまた夢だ。

「名前、」
「え……わっ!?」
「っ…元希さん!!」

名前が考え事をしていると、突然榛名が彼女に抱きついてきた。不可解な行動に名前はまばたきを繰り返すが、さすがに阿部が声を上げた。

「ははっ、隆也嫉妬か?」
「元希さんにだけは妙にイラつくんです!」
「酷いなー」

そう言いながらも、名前を解放した。阿部以外に抱きつかれるのは久しぶりで、若干頬に赤みがさしている。

「いやー悪い悪い名前。なんか無性に抱きつきたくなった」
「び、びっくりしました…」
「…もう行きますね。俺達仲間待たしてんで」

やや急かし気味に名前の腕を掴む。榛名は苦笑しながら「ああ、」と返事をした。

「じゃ、失礼します」

阿部につられて三橋と名前も頭を下げた。

「じゃーなー。名前、またメールするから」
「あ、はい…」

最後にまた一礼すると、三人は元来た道を辿って行った。

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