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≫誤解1







準決勝当日。予定通り西浦ナインは一試合目から観戦を行っていた。

「…千朶危なかったね」

一試合目が終わり、名前はポツリと感想を洩らした。すると先程まで三橋の横にいた阿部が、配られたお弁当を手に彼女の近くに腰を下ろしてそっと頷く。

「確かにな…ギリギリだった」
「でも日農大はこれからが注目所なんじゃない?秋には新グラウンドできるし、二年にいい投手がいるでしょ」
「…詳しいな」
「ふふ、千代ちゃんとちょっとね。調べたの、昨日の夜」
「ふーん…」

阿部は食べ終わったおにぎりの包みをクシャッと丸めた。すると三橋がノートを持って阿部の前にやってきた。

「…バッター…攻略…見て…二人…」
「わーったわーった」

一試合目もやっていた「二人観戦」。阿部は残りのごはんをかき込むと、その場を立ち、元いた場所に戻っていった。







試合はやはりARCが優位に立っており、武蔵野はなかなか点が取れずにいた。しかしシニアの頃とは違って全力投球する榛名。そんな彼に阿部は疎か、名前も妙な気持ちがふつふつと湧き上がってきた。胸の中で何かがぐるぐると渦を巻く。

───全力投球してる…

榛名の気持ちがよくわからなくなり、名前は顔をしかめる。阿部に至っては三橋への解説を忘れる程に考えこんでしまっていた。

「…今、榛名さんはチームの為に投げてるってことなのかな」

誰にも聞こえないように小さく呟く。だが声に出したところで解決するわけもなく、名前の疑問は虚しく宙を漂う。

結局、武蔵野は八回裏に五点取られて四対十一。コールド負けとなった。



「…負けちゃったか」

名前はゆっくり腰を上げ、スカートを叩いた。少し先からは、監督の集合を呼びかける声が聞こえる。名前はマウンドから目を離せずにいながらも、早々とその場から離れた。

選手達と合流すると、そこにはやけにオドオドした三橋がいた。どうしたのかと声をかけようとした途端、三橋は精一杯の大声で帰ろうとする監督を呼び止めた。

「…カ、キャントク…!!」
「呼んだ!?」

些か噛んではいるが、どうやら伝わったようだ。が、 いつもの口調で案の定言いたいことが伝えられない三橋。

「…は、あの…お、れ…」
「…?」

結局痺れを切らした阿部が、横から救いの手を差し伸べた。

「監督!武蔵野の榛名さんがシニアの先輩なんで、挨拶してきてもいいですか?」
「ああ…そう言えば。じゃあ五分ね!」
「ありがとうございます!」
「ございます!」

何故か阿部と一緒に頭を下げる三橋。阿部について行くつもりなのかと思って、黙って二人を見つめていた名前は、勝手に「杖かもな」などと憶測を立てていた。しかし急に自らの手を引かれ、思考が現実に戻される。

「…名字さ、ん…も…行こう…っ?」
「え、ちょっ…三橋君!?」

現状が掴めないままズルズルと引き摺られ、名前はあっという間に外へと連れ出された。



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