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≫合宿1





「やっべぇっ昨日オナニーすんの忘れた!!」
「「はぁ!?」」

合宿初日、目的地へ向かうバスの中でいきなり田島が声を張り上げた。
名前は半ば呆れ顔で後ろを振り返ると、みんなが必死で田島を止めている。そんな中篠岡は忘れ物でもあるのかと聞いていて、篠岡の純粋さに少しばかり驚いた。

「私隆也のせいで色々知っちゃったからな…」
「えっ、何か言った?」
「ううん、何でもない」

思っていたことが口に出ていたようだ。名前は慌てて口を固く結んだ。

「田島君…何か忘れ物したみたいなんだけど、大丈夫かなぁ…」
「あー…大丈夫だよ」

まだ後ろでガヤガヤいっているみんなに篠岡は心配でならないようだ。そんな彼女を可哀想に思い、名前はみんなの元へ足を運んだ。

「静かにしないと千代ちゃんずっと心配してるよ?」
「あ、名字!俺らもさ、そう言ってるんだけど田島の奴なかなか聞かなくて」

焦った顔で水谷が言う。他の人も一生懸命田島をなだめているようだが、名前が出来ることは何もない。ただその場を苦笑いで眺めているしかできないのだ。
と、いきなりバスが揺れてバランスを崩してしまった。が、倒れることはなかった。ふと見ると阿部と手に支えられている。

「大丈夫か?」
「うん、ありがと」

無事なのを確認すると、阿部は自分の席へ戻っていった。その後ろを名前はてってっとついていく。

「何だよ」
「ねぇ…三橋君は?」
「三橋…?あいつなら後ろにいるけど…何で」

阿部に言われた通り、一番後ろの席に茶色い髪が見える。


「んー…なんかさ、三橋君って可愛いよね」
「「は!?」」

名前の言葉を聞いて驚きの声をあげたのは阿部だけではなく花井もだった。二人は訳が分からないといった様子で目を瞬せている。

「何で?あいつイライラしねぇ?」
「あー隆也はそうかもね。でもね、私にはあのおどおどした感じが可愛い」

ふふ、と笑うと阿部が呆れ顔でため息をついた。

「オドオドだけじゃねぇけどな」
「まぁ、不思議な行動多いよね。まだあんまりよくは知らないけど、今まで出会った事ないタイプ」
「俺もだよ。だから困ってんだ。アイツとこれから組んでかなきゃならねーんだから」
「隆也とはある意味正反対かも。ね、花井君」
「ああ…ってちょっと待て。タカヤって誰だ。まさか阿部か?」

名前と阿部を交互に見ながら目を丸くする。だが逆に阿部たちは平然としていた。

「そうだよ。阿部隆也、自己紹介の時フルネームで名乗らなかったの?隆也」
「いや…名乗られたような気もするけど下の名前なんか覚えてねぇ」
「俺もそうだな。他の奴らの下の名前、殆ど知らねー」

花井の言葉に真顔で同意を示す阿部。しかし花井が聞きたかったのはそこではない。どうしてマネージャーが目の前の男を下の名前で呼んでいるのかが謎なのだ。

「そうじゃなくて。なんで名字は阿部の事下の名前で呼んでんだ?お前らの中学ってそんな感じだったのか?」
「違ェよ。あれ、言ってなかったか?俺達中三から付き合ってるんだよ」
「えっ、そんなの聞いてねぇ!」
「そうだっけ。まぁ別にわざわざ言うことでもないしな」

返事の代わりにコクンと名前が頷けば、花井は顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。

「……?」

一体どうしたというのか。花井の行動を不思議に思い、名前が問いただそうとしたら、志賀先生の声が割り込んできた。

「阿部!三橋が酔っちゃったんだって。薬あげて様子見ててよ」
「え、俺すか」

あからさまに嫌そうな顔をする阿部に志賀はニカッと笑う。

「先生は野球詳しくないけどバッテリーは一心同体なんだろ?投手を介抱してやれよ!」

そう言って薬を手渡した。そしてあっという間にいなくなるものだから阿部も薬を返すこともできず。結局諦めて三橋の元へ向かうことになってしまった。


「えー…いいなぁ…私が介抱したい」
「ならお前が行くか?」

ん、と薬を手渡されたが名前は首を振って断った。

「駄目だよ。ここは捕手が行かないと」
「ちっ…」

そっと背中を押せば、阿部は苦い顔で動き出した。それを見送ったあと、名前は自分の席へと戻った。









「やっと着いた」

バスから降りると、森で囲まれたいかにも、というような雰囲気を持った建物が視界に入ってきた。

「さぁ着替えて掃除掃除!掃除済んだら山菜摘んできてね!夕飯も自分等で作るんだよ!」
「えー…」

監督の言葉に文句をいいながらもみんなせっせと動き出す。
掃除は、名前と篠岡が主に台所を担当していたのだが、ふと見ると三橋が一人でオロオロしていた。声をかけて、何かして仕事を見つける手伝いをした方がいいだろうかと三橋のそばに名前が駆け寄ったのだが、志賀にまたもや割り込まれてしまう。

「掃除はこんくらいで!山菜採りに行こうか!」

名前も採りに行くのだと思い、みんなについて行こうとしたら、監督に呼び止められた。

「名前ちゃんもあの二人と一緒に別メニュー」

クイッと出される指の先を見れば、先にグラウンドへ向かっているバッテリーがいた。名前は不思議に思いながらも頷き、一言篠岡にそのことを告げて自らもグラウンドへと足を運んだ。







「あれ、何でお前までいんだ?」

犬のアイちゃんの散歩をしている阿部が驚いた表情で尋ねた。

「わかんない。監督に呼ばれた」

正直、名前自身が一番不思議だった。なぜ選手でもない自分が呼ばれたのか。本当に不思議だ。

「名前ちゃんってマネジメント、得意なんでしょ?」
「監督…」

誰に聞いたのか、監督はにっこり顔で名前の方を向いた。

「誰に聞いたんですか?」
「阿部君!」
「へ、あ、あー…そういや言ったな」
「ちょっと…私、別に得意じゃないよ?」
「いや、上手いよ」

真顔で阿部は言い張る。そんな様子を監督は目を輝かせて聞いていた。

「阿部君がそう言うんだから、ね?名前ちゃんにマネジメントお願いしたいの!勿論私もできることはやる。でも是非とも名前ちゃんにも手伝って欲しいのよ」

ねっ、と手をしっかり握られてそう言われれば、非常に断りにくい。名前は渋々頷いた。

「私でよければ…お手伝いさせてください」
「そうこなくっちゃ!さ、阿部君はそろそろ三橋君所へ行きましょうか」






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