×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

≫準決勝前日1







「プールの使用許可が取れたぞー!」

お昼寝が終わったすぐあと、先生から嬉しい報告あった。この暑さの中、プールなどという涼しくトレーニングが出来ることが今現在では最高である。皆は上機嫌でプールへと向かった。




「次Bチーム、平泳ぎいきまーす。よーい……」

篠岡の合図で田島達含むBチームが一斉にスタートした。一方名前は、元気よく飛び込んだ田島と三橋を横目に見ながら次々にプールサイドへ上がっていく皆の様子を確認していた。するとちょうど名前の足元付近で沖が水中から顔を出した。そしてタッチの差で花井が上がる。

「っ、あー…負けたー。沖はえーな」
「小六までスクール通ってたもんねー」
「マジか!」
「平泳ぎは二回学校代表なった!」
「えっ、凄い!」

驚きの事実に話をこっそり聞いていた名前は、思わず彼等に反応を示してしまった。咄嗟に沖の横にしゃがみ込み、尊敬の眼差しを向ける。

「あれ、名字聞いてたの?」
「あは、ごめん。盗み聞きしちゃってた」

少し驚きの表情を見せた沖だったが、特に怒った様子も見せずに笑みを浮かべた。

「それにしてもホント凄いね。私平泳ぎダメなんだよね」
「えっ、マジで?意外だなー」
「うん、名字にしては意外だなぁ。なんか何でもできそうなイメージだもん」
「あははっ、買い被り過ぎだよ沖君。平泳ぎなんかは前に進む度に沈んでいくんだよ、ホント」

そう言ったところで阿部がきつそうな表情で顔を出してきた。

「手だけじゃきついー…」

使えない足の分を、阿部は手だけでカバーして泳いだので倍とまではいかないものの、負担が少なからずかかったのだろう、阿部は息を切らして眉をひそめた。そんな阿部に花井は視線を向ける。

「とか言って、なまってんじゃねーの?」
「それもあんだろなぁ…心肺機能はすぐ落ちるって言われたし…」
「じゃあ水泳いいじゃん。足使わねーで全身運動できるんだろ?なぁ、名字」
「へ、あ、うん」

田島君速いなぁ…などとぼんやり見つめていたため少し反応が遅れた。

「家の近くにプールとかあったらね…良かったんだけど。やっぱり少し動いただけでも熱持っちゃうみたいだから」
「そうかぁ…」
「ま、今は合宿中だからね。せめて合宿中だけでも毎日プール借りられたら楽なんだけどな…みんなも涼しくトレーニングしたいでしょ?」
「そりゃあなぁ。なかなかそうはいかねーだろうけど」

そうなんだよ、と頬を膨らませる。すると沖がコクンと首を傾けた。

「そう言えば阿部、三橋とロード行ってるんだろ?それもトレーニング?」
「あれはなぁ…多分心の訓練だな。三橋と一緒にいること自体が目的みてーよ。ったく…名前も適当に誤魔化して詳しいこと教えてくんねーしよォ」
「あはは、だからやってみたらわかるって」
「いや、だって俺達すげー仲悪いわけでもねーだろ?」
「んー…まぁ…悪くはないけど」

言葉を濁しながら隣に目を向けると、花井以上に難しい顔をした沖がいた。

「…でもさ、阿部って三橋のこと怒るよね?」
「……?」

沖の言葉に名前だけでなく他二人も疑問符を浮かべる。

「あ、れ?例えばほら、五回戦でもベンチで三橋にはっきり言え!とか、泣いてんじゃねぇ!とか」
「えっ、怒ってねーよ?」
「い、言ってたよ?」
「いや、言ったよ?けど怒ってねーって」
「なんだ怒ってないのかー」
「言い方がキツいのよね、隆也は」
「そうかぁ?」

阿部は難しそうな顔で彼女を眺めた。無論、感じ方というのは人それぞれであるためお互いが納得出来ることはなかなかないだろう。しかし三橋と阿部の場合、少し話が違ってくる。もっとお互いが心の許しあえる仲になるべきなのだ。阿部が三橋をもっと認めて、三橋が阿部をもっと怖がらなくなる…それが今の所の名前と監督の目標であった。

「…ところで阿部、いつまで水につかってんの?」
「んあ?あ、ああ…俺あと一往復残ってんだわ。行ってくる」
「行ってらっしゃーい」

花井に言われて大事なことを思い出した阿部はあっという間に水中へと体を沈めた。



*prev | next#


back