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部屋での説明が終わり、みんなは昼の練習に移った。阿部はベンチでボール磨きである。すると監督が手に何やら持って、彼のそばにやってきた。

「阿部君」
「、はい!」
「スポーツ選手用の料理の本持ってきた。これ見て夜までに献立決めて、名前ちゃんか志賀先生にチェックしてもらってね」
「あ、ありがとうございます………」
「…どうかした?」

本を手にして、阿部は何やら複雑そうな表情をしていた。監督は不思議に思い、首を傾げる。
すると。

「…っ、すいません!俺らだけじゃ無理です!!」

急に阿部が頭を下げた。

「………そうだね…じゃあ名前ちゃん…じゃなくて千代ちゃんに協力してもらおうか」
「え、篠岡?名前じゃダメなんですか?」
「んー…名前ちゃんにはちょっと仕事させすぎちゃってるから…千代ちゃんじゃいけない?」
「や、そんなことないっすよ!ちょっと不思議だっただけです。…そんなに忙しい仕事なんですか?」
「う、あ…まぁね…。じゃ、ちょっと千代ちゃんと三橋君呼んでくるね」
「?…はい」

少し慌てたようにその場を去った監督。些か話をうやむやにされた感が否めないが、阿部はおとなしく二人を待った。






しばらくして、自分の作業を終えた名前がグラウンドへ向かったところ、柵の向こう側でうずくまっている篠岡を見つけた。具合でも悪くなったのかと、慌てて名前は駆け寄る。

「どうしたの?」

しゃがみ込んで篠岡の顔を覗いた瞬間、彼女は今までにない程顔を真っ赤にして立ち上がった。

「な、ななな何でもない!!」
「でも顔真っ赤よ?」
「えっ、あ、や、ホント何でもないから!」
「でも…」
「気にしないで!じゃ、私急ぐから!!」

名前の返答も許さないまま、篠岡は急いでその場を去った。その背中を名前は黙って見つめる。
─────あの赤くなりよう…好きな人でもできたのかな…。水谷君だったらいい展開になるのに…
とは言ってもあの赤面が恋からなるものなのかははっきりとはわからない。名前はとりあえずグラウンドへと足を運んだ。


「お、名前」
「隆也はボール磨き中?」
「ああ、一緒に練習できないのが悔しいぜ」
「焦りは禁物」
「わーってんよ」
「あ、ところで…」

会話の途中、名前は先程の篠岡のことを思い出した。

「千代ちゃん、さっきまで何してたか知ってる?」
「篠岡?」

唐突な質問に、阿部はボールを磨く手を止め、名前を見上げた。

「篠岡ならさっきまでここで一緒に明日の朝飯の献立考えてたけど?」
「え、」
「俺が監督に二人じゃ無理だって言ったら篠岡と協力するように言われてさ」
「そっか。その時千代ちゃんに変なとことかなかった?」
「いや、別に?」
「そうなの?え、じゃあ…何なんだろう?」
「何が?」
「や、ううん。何でもない」

結局、篠岡のことは殆どわからず終い。仕方がないので、名前は諦めてマネジの仕事に移った。



その日の夜、夜食組とお風呂組で分かれる時間に阿部がグイッと名前を外へ連れ出した。だが膝のことを考え、遠くには行かずに近くの物陰に引っ張る。普段阿部がこういうことをしないからか、名前は凄く驚いた表情をしていた。

「ちょ、どうしたの?」
「…名前、昼間聞きそびれちまったから今聞くな…」
「…うん」

向き合う形で真剣な眼差しの阿部。一体何を言われるのかと、名前は気が気でなかった。だが。

「…お前、マネジの仕事以外に何かやってんのか?」
「へ、」

意外なことを聞かれて名前は気の抜けた声を出してしまった。しかし阿部はいたって真面目な様子である。

「…何かすげー仕事させすぎちまってるって監督が言ってたから…」
「…ふ、ふふっ…何でもないよ、大丈夫」
「えっ、」
「ただお母さん達に混じって昼食と夕食と補食類作ってるだけだから」
「マジ?」

控えめに笑う名前に、阿部は一気に力が抜けるのを感じた。

「はぁ…監督がはっきりいわねえから、何かすげー辛い仕事でもやってんのかって思った」
「だって私が内緒にしてくださいって言ったもん」
「は?何で?」

声が大きくなりすぎないよう、周りを気にしつつ尋ねる。

「んー……やっぱりいやでしょ?」
「はい?」
「私なんかが父母会に混じってご飯作ってる何か知ったら」
「へ、いや…んなことねーと思うぞ?」

何故嫌なのか、理解できない。 阿部は美丞戦の後出してくれた料理を思い出し、顎に手を添えて考えた。 もしかして、自信がないだけなのだろうか。立派な知識と相応の腕があるのだから誰も嫌がりはしないだろうに。そう思うのだが名前は違ったようで、疑いの目を彼に向けていた。

「そうなの?」
「当たり前だろ」
「うーん…」

それでも尚、複雑そうな名前。阿部は痺れを切らして彼女を引き寄せた。

「…自信持てよ」

耳元で優しく囁く。それに名前は少し頬を赤らめたものの、すぐに笑みを零した。

「ふふっ…どうしようかなー」
「はぁ?お前に選択権なんてねーぞ?」
「あら、そうなの?じゃあしょうがないから隆也の言葉に従おうかな」
「ははっ、ムカつく言い方」

阿部もつられて笑いながら、彼女に軽く口づけた。名前もお返しとばかりに、背伸びをしてキスをした。

「…ありがとう、隆也」
「お礼なら今してもらったから問題なし」
「うわ、キザー!」
「んだと」
「あははっ、行こう、隆也」
「ああ」

そう言ってもと来た道を辿る二人。部屋に入れば皆にどこに行っていたのかと、問いただされる始末。名前達は何かそれらしい理由を付けて、その場を回避した。

だが、ただ一人。篠岡が微妙に悲しそうな顔をしていて、気付いた名前は少しばかり首を捻った。

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