≫育て!1
「おはよー」
「お、名字早いな」
グラウンドに入ろうとしていた最中にふと、後ろから声がして花井は振り返った。
「だって今日目標決め直すんでしょ?昨日行けなかった分、挽回しないと」
「名字は目標変わらないまま?」
「勿論!花井君は?」
「俺も、目標全国制覇にした!」
「ふふ、そっか」
そう言いながら二人でベンチに移動する。するとそこにはすでに泉と三橋、水谷がおり、どうやら三人も目標の話をしているようだった。
「み、水谷君の…目、標…は?」
「俺?甲子園優勝!そりゃ体力の心配とか色々あるけど、でも俺もやったろーって思ってさ!」
三橋の問いかけにニカッと笑って水谷が言った。名前も自然と笑みが零れる。
「…ま、三橋のためとかはサムいけど…」
「それだったらやっぱり千代ちゃんのためとか?」
「はっ!?」
冗談半分で言ったのに、水谷は本気で慌てたように名前を見た。そんな彼に名前も目を見開く。
「え、深い意味はないよ…?」
もしやと思い、恐る恐る口に出すと、水谷は「俺もないですから」と、グラウンドへ一目散に駆け出して言った。
「まさか水谷君が…」
千代ちゃんを好きなんて。
今まで全く気づかなかったため、なかなか衝撃が大きい。隣にいた泉も同じように衝撃を受けたようで、水谷が立ち去った後、二人で顔を見合わせた。
「知ってた…?泉君」
「まさか。でも…ふーん、水谷がねぇ」
「千代ちゃんはどうなんだろう?」
「あー…わかんないけど…特別な感情抱いてるようには見えねーな」
「あらら、頑張れ水谷君」
豆粒ほどになるまで遠ざかった水谷を、名前は優しく見つめた。
「…く……とく、監督!」
「う、あ、はい?」
アップを行っているみんなをじーっと見つめていた監督に、名前は何度か呼びかけた。そして四回ほど呼んだ辺りで、ようやく監督の意識がこちらへ戻ってきた。
「ごめん名前ちゃん。考え事してた」
「考え事?」
「これからみんなはもっと広い世界があることを知っていくんだなぁ…って」
「ど、どうしたんですか?急に」
「んーん、何でもないの。それよりどうしたの?」
「あっ、そうでした。監督にメニューを調整してもらおうと思って…」
あらかじめ監督からお願いされていた「甲子園優勝に向けて」の新しいメニューを、名前は監督に手渡した。
「うーん…そうね…サーキット三倍はOKで、ラダーもこれでよし。後は…あ、坂道ダッシュは10本じゃなくて15本にしましょう」
「15本…!」
「重りもプラスね!」
「うわ、結構鍛われますね…」
「最初は辛いだろうけどね、慣れたら大丈夫よ!」
そうこうしているうちにアップを終わらせたみんなが、監督の指示を仰ぎに集まってきた。
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