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「じゃ、私ちょっと千代ちゃんに電話してくるね」

杖を置いてから名前はすっと立ち上がり、部屋を出ようとした。その時、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。「ん?」と玄関の方に首を傾けると、そこから外の様子を眺めていたシュンが、嬉しそうに外へ出て行くのが見えた。名前も玄関から顔を出すと、そこには田島、栄口、三橋がこちらへ向かって来ていた。どうやらお見舞いに来てくれたようだ。

「あ、名前ー!」

彼女の存在に気づき、ニコニコと手を振ってくる田島。名前はそれに応えるようにニコリと笑って、携帯をポケットにしまった。
─── 千代ちゃんに聞かなくても大丈夫そうだな。

名前はそのままシュンと共に阿部の元まで案内し、飲み物を取りに台所へと向かった。後ろからは田島がついてきている。

「ポカリでいーい?」

冷蔵庫を探りながら言うと、「うん」という元気な声が返ってきた。それならば、とポカリを取り出しコップを出そうかと棚へ向かったら、もうすでにシュンが人数分出してくれていた。

「ありがとシュンくん」

そのコップを受け取り、阿部達の元へ向かう。田島は何をしにきたのか、そのまま一緒に歩き出す。大方探検でもしたかったのか。それとも別に意味はないのか。それは田島にしかわからない。




「──それで、お前新人戦どうなの?」

皆がその場へ腰を下ろし、話は田島の一言で阿部の膝の事から試合についてと発展していった。

「ギリギリ、間に合う」
「ホントにか!?」
「ああ」
「でもお前U度だったんだろ?二週間じゃあ無理じゃねーか?」
「…モモカンは?」
「ギリギリだって、同じこと言ってた。でも捻挫ってちゃんと治さないとまたやっちゃうんだろ?」

確認をとるように名前の方を見てきた田島に、名前は黙って頷いた。

「長引かせて冬の基礎練やれなくなかったら本格的なロスになっちゃうぞ」
「………」
「俺が今日キツかったのは前準備がなくて頭がついてかなかったっつーか、打席で集中できなくてさ。でも俺四番じゃん、四番は四番としてちゃんとやりてーことがあるんだよ!それができなくてくううううってきっついの!」
「そうだよなぁ…」

申しわけなさそうに言う阿部に、田島はグイッと体を近づけた。

「だから、次は心の準備をしときたいんだ。新人戦と、場合によっちゃ秋大も俺がキャッチャーやるから、お前はきっちり治せ!」
「……………」

ハッキリ「うん」とは言えない。できれば新人戦から自分が出たい。だけど田島の言っていることはもっともだ。阿部は苦い思いで、自分の足を見つめた。
するとその時、シュンが出前のメニュー表を持って現れた。

「おじゃましまーす!夕食の出前、田島さん達何がいいですか?」
「おおっ!」

嬉しそうにメニュー表を広げる二人。だがその横で栄口が帰る支度を始めた。

「俺はもう帰るよ。弟一人家で待たせてるから」

携帯で時間を確認して、立ち上がった。そして先程からあたふたしてなかなか座れずにいた三橋を座らせ、阿部に向かう。

「俺も、完璧に治しちゃうのが結局は早いと思うよ」
「おー。今日はありがとな」
「お大事にー」




「あっ、田島さん。かづやのカツ丼うまいですよ!」
「よっしゃ、じゃあ俺カツ…」
「ちょっとストップ」

栄口が帰ってすぐに早々とメニューを決める田島達に、名前がすっと駆け寄った。そして二人の持っていたメニュー表を取り上げ、畳んで脇にしまう。

「出前じゃ栄養バランスが悪いからダメ」
「えーじゃあどうすんだよー」
「私が作るよ」
「え、マジ?」

驚きつつも目を輝かせる二人に、名前はニコリと笑うと、周りのみんなに聞こえるように説明を加えた。

「いい?15歳〜17歳の身体活動レベルが高い男性の場合、一日に必要なエネルギー量は3.100カロリーなの。それでいて一日に30種類以上の食品を取らなきゃいけないわけ」
「ほー」
「だから、少しでも早く治したいんだったらバランスの良い食事を、そして一日に必要なエネルギー量を必ず超えるように意識すること。って言っても食品によって取らなきゃいけない量があるからその辺も考慮してね」
「取らなきゃいけない量ってのは?」

阿部が質問する。それに便乗して田島達も首を動かした。

「例えば第一群。何かわかる?」
「乳製品とかか?」
「隆也せーかい。その乳製品は400グラム、卵は50グラムとかね。まぁ、これはあくまで目安だから個人の必要に応じて調節はしなきゃだけど」
「だけどそれじゃあ毎日同じようなメニューになるんじゃねーの?」
「だからこその料理よ!同一の食品でも調理法を変えれば献立に変化がつく。年齢にだって対応できるよ」
「なるほど…お前すげーな…」
「ふふ、受け売りよ。お父さんの。トレーナーとして必要な知識だってね」

くるりと回って台所へ向かう名前。それを尊敬の眼差しで見送ってから田島とシュンのスイングを見るために庭へ、三橋と阿部は各々が心に思っていることをぶつけた。









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