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「とりあえず介護側が大変なんで、杖がいらなくなるまでは隆也は一階の客間に居てもらいます」
「うーす」

家に着いて早速名前は阿部の部屋から必要最低限の物を持ってくる。阿部はおとなしくその場に座って、その様子を眺めていた。ミーティングの為か、くるくるとよく動く名前。あっという間にその場は綺麗にセッティングされてしまった。

「サンキューな」
「いーえ。はい、隆也ここ来て座布団の上に足乗せてね」
「あ、いや…その前にさ、俺…風呂入りたいんだけど」

自分を立ち上がらせようとする名前をひとまず停止させ、下から彼女を見上げた。

「んー…入れる?」
「わかんねー。やっぱり明日がいいか?」
「や、明日は多分膝、パンパンになるから今日の方がいいかも」
「マジか。くそ、じゃあ気合い入れて入るしかねーか」

さすがに試合の後に風呂に入らないというのは気持ちが悪い。何よりも先にこの体に付いた砂を落としたかった。

「なんなら私が洗ってあげようか?」
「はぁ!?」

驚き半分、嬉しさ半分で名前を見た。だが彼女の表情からは「冗談」という言葉が見て取れる。

「嘘つけ、洗う気ねーだろ」
「ふふ、代わりにおばさんは?」
「ぜってーやだ」

高校生にもなって母親から洗ってもらうなど、恥ずかしいことこの上ない。それだったら名前が断然いい。が、彼女は洗ってくれそうにないので大変だが自分で洗うしかなくなった。

「…ま、一人で頑張ってみっか。これ、濡れないようにビニール巻けば平気か?」
「ん、それでいいと思う。待ってね、今ビニール巻くから」


そうして結局、阿部は一人で風呂に入ることになった。




一方、阿部の母親はというと、阿部がお風呂に入っている隙に名前と食事や介護の事について話し合っていた。

「隆也って好き嫌いあります?」
「あの子は無いわ。だからそういうところは助かるのよねー」
「やっぱり好き嫌いが激しいと作る方が大変ですもんね」
「そうなのよ」

そんな会話を続けながら名前はいくつものメニューを紙に書き出し、阿部の母親に手渡した。

「これ…何かの役にたてばと思って一応書きました。部活をしている男子高校生が一日に取らなきゃいけない物をバランスよく入れたメニューを書いたんで、良かったら使ってください」
「え、何コレすごい!ありがとうすっごく助かる!」

顔をぱぁっと輝かせてそのメニュー表を受け取った阿部母は、それを台所の目立つ所に貼った。

「名前ちゃんのおかげでちゃんとした食事が作れそう。頭使うの久しぶりだから不安だったのよねぇ」
「なかなかこんなに考えて作る機会ないですもんね」
「そうなのよ。…あ、もうこんな時間。急がなきゃ」

急に時計を見て焦り出した阿部母に、名前は首を傾げた。

「何かあるんですか?」
「七時から父母会があるのよ」
「え、七時!?」

名前も慌てて時計を見た。すると、針は六時ちょい過ぎを示している。
───いつのまにこんなに経ってたんだろ…こんな時間じゃもしかしたらミーティングどころか部活も終わってるんじゃ……

そう思うと居ても経ってもいられず、ひとまず阿部の元へ足を運んだ。


「隆也!!……あ、」

潔く脱衣所の扉を開けた先には、今し方お風呂から上がって体を拭いている最中の阿部がいた。勿論彼は全裸なわけで。いきなりのことで対応しきれなかった名前は、顔が真っ赤になってしまい、慌てて目を背けた。

「や、あ…の…ごめん…っ」
「はぁ?何今更恥ずかしがってんだ?風呂ん時見てるだろーが」
「こ、心の準備が必要なのよ!いいからパンツ履いて」
「はいはい」

そう言って慎重に足を上げる阿部。椅子に座っての着替えは初めてなので、きちんと履くのに結構な時間がかかった。

「…履いたぞ。…で、お前はなんでそんな慌ててんだ?」
「あっ、そうだった!隆也、今日七時から父母会って知ってた?」
「いや?」
「今もう六時過ぎてるのよ!」

たたっと彼の側へ駆け寄り携帯の時間を見せた。

「あー…こりゃもう部活すら終わってんじゃね?」
「…やっぱり…?」

認めたくはないが、こう人から言われると諦めざるを得なくなるような気がする。名前はため息と共に肩を落とした。

「しょうがねーじゃん。後でしのーかにでも聞いとけば?」
「うん、そうする…」
「じゃあその後俺にも教えてくれ」
「うん」

まだ気持ち的には晴れないが、いつまでも落ち込んではいられない。名前は着替え終わった阿部が立ち上がるのを手伝って、客間まで付き添った。そして椅子に座らせ、左足の下に座布団を敷き彼の手が届く所に杖を揃えた。

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