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体が熱い。鋭く刺すような痛みが全身を駆け巡り、耳鳴りもする。割れるように頭が痛み、呼吸も上手くいかない。猛烈な吐き気と手足の痺れに対し、朦朧とする頭でなんとか対処しようと名前は意識を自分の中へと集中させた。隣では八戒が出来る限りの事をしようと、あまり体を揺らさないようにしながら噛まれた傷痕に気を送っている。至る所が腫れ上がり、熱も高い。八戒は必死に処置を施し、三人が戦う姿を後ろから急かすように見守った。





「ーー魔界天浄!」

鬼気迫る声が響き渡った。しかし三蔵の予感は見事に的中し、経文は女の周りに漂うだけで本来の力は現れていない。やはり無駄だったか、と舌打ちして解こうとした瞬間、経文を囮にして悟空が勢いよく女の顔に一撃を加えた。
一瞬意識が経文へ向いた所為でまともに攻撃を食らってしまい、女の体は見事に吹っ飛んだ。綺麗に並べられていた沢山のコレクションに派手にぶつかり、ガシャン、と音を立てながら次々に割れて地面へと転がる眼球を見て女は益々激しい怒りを露わにする。

「…私の…」

起き上がる前に次の手を出さなければ、と悟浄と悟空が間髪入れずに攻撃を加える。鎖で女の体を拘束し、悟空が再び走り込んで如意棒を翳した瞬間、女の周りに突如現れた障壁のようなものに阻まれ、まるで電撃が走ったかのような激しい音と共に弾き飛ばされてしまった。

「悟空!!」

あの女の細い体のどこから力が湧いてくるのか知らないが、鎖から逃れようとする力に引き摺られないよう必死で両足を踏ん張っていたが、悟空が吹き飛ばされ、一瞬意識がそちらへ向いてしまったばかりに悟浄も体を放り投げられてしまった。その衝撃で錫杖が手から離れ、そして悟浄を受け止めようとした悟空ごと岩壁へ突っ込んだ。ガラガラと音を立て岩が崩れ落ち、二人の体は一瞬にして見えなくなってしまった。

「悟空!悟浄!」
「許さん…貴様らを全員喰らうまでは…」

錫杖が消え、女は地面に散らばった眼球を一つ一つ指で摘まみ上げると、立ち上がって飴玉でも舐めるように紅い舌を滑らせた。

「ああそうだ…先ずは貴様の瞳をくり抜かねばな」

怒りで顔や口調すら変わり果てた女から向けられた視線に、三蔵は苛立ちながら銃弾を三発見舞った。だがどれも障壁に阻まれ、反射して彼方此方へと飛び散ってしまう。舌打ちを零し弾を全て込め直すと、不意に視界の端に蠢くものが三つ映った。
瓦礫の中から抜け出した悟空と悟浄、それから名前の元から離れて加勢をしようと向かってくる八戒に、三蔵は力の限り声を上げる。

「まとめて攻撃しろ!!」

三蔵の言葉の意味を全て理解するには、この場では時間が足りないが、それでも各々が今するべき事は理解した。兎に角間を空ける事なく攻撃し続ける事だ。いかに阻まれようと、避けられようと、反撃の隙を与えないように己の力をぶつける。これが何か考えがあるらしい三蔵との共闘に繋がるのだ。

「うおりゃああああ!!」

気孔を、錫杖を、如意棒を、己の体自身を。今出せる力の全てを一心不乱に女へ浴びせかける。しかし女は涼しい顔で、それどころか楽しげでさえある表情を浮かべて男達を見つめていた。

「無駄だ、貴様らではこの結界すら破れぬ」
「…舐めてんじゃねーよ」
「!」

突如間近で聞こえた低い声に、女は本能的に身構えようと体を一歩後ろへ引いた。しかし構えるどころか何者であるかの確認すらする間もなく、銃弾が女の胸を貫通していた。
一体何が起こったのか。それを頭が理解するよりも早く次は膝蹴りを鳩尾に食い、女は地面へと崩れ落ちた。

「…なに、が…貴様…!何故…」

蹲りながら見上げた先には、金糸の髪と美しく光る水縹の瞳が覗いている。喉から手が出るほど欲しい瞳と男がすぐ側まで迫っているというのに、女は結界内に入れているという事実に言葉を失っていた。

「チッ、外したか」

女の質問には答える素ぶりも見せず、三蔵は心臓を外した事に苛立ちを見せた。すぐ様ハンマーを起こし、照準を頭部へと合わせる。

「やめろ…!!待っ…」
「うるせーよ」

パンッ、という音が響くと共に、女は地面へと伏した。
漸く終わった、と周りで見守っていた悟空達が息をつこうとしたのだが、何故か三蔵は倒れた女に尚も銃口を向け、引き金を引いたのだ。驚いた八戒が咄嗟に止めようと手を伸ばしたが、まだ怒りの収まっていない顔で女の頭に弾を打ち込んでいる姿にソレを躊躇われた。
結局、全弾撃ち終わってピクリとも動かなくなった蛇女を見やり、漸く三蔵は一息ついた。銃を懐へ仕舞い、踵を返す。八戒らは少しばかり声をかけるのも躊躇われたが「名前はどうだ」と言う低い声に、下手な気遣いは無用であったと安堵した。とは言え名前の容体についてはとても安堵してなどいられない。八戒は彼の問いかけに対して、難しい顔を返した。

「噛まれた傷は塞ぎましたが、毒までは僕にはどうにも出来ません。腫れも酷いしかなりの高熱です。呼吸も凄く浅い状態で、脈も弱い。兎に角早く病院に行って血清を打って貰わないと…」

まくし立てるように吐いた言葉に、悟空も悟浄も顔を青くしている。しかし名前の側に膝をついた三蔵は、ジッと彼女を見つめたまま小さく信じられない言葉を口にした。

「…いや、暫くここに残ろう」
「三蔵!?」
「洞窟内はまだ良くねぇが、森自体の悪い気はもう消えている。今は体を下手に動かすより寝かせておいた方がいい」

淡々と言ってのける三蔵に、八戒が声を荒げた。

「気でも狂ったんですか!?毒は時間との勝負なんですよ!?あなた、名前を死なせたいんですか!!」
「んなわけねーだろ。いいから騒ぐな」
「おいおい三蔵様よ、今は冗談言ってる場合じゃねーって」
「そうだよ三蔵!早く連れて行かねーと!名前死んじゃうよ!」

しがみ付き、体を揺さぶる悟空を何とか跳ね除けて、三蔵は名前を横抱きにして洞窟を出た。静止の声も聞かず三蔵は下流へと少し足を進め、程よく開けた場所で歩みを止める。

「八戒、ジープは連れてきてるか」
「は、はい」
「恐らく一晩はかかる。車に変身させろ」
「…三蔵」
「いいから、早くしろ」

いまだ納得のいかない表情で、八戒は指示通りジープを車に変身させた。三蔵はそれを確認すると、後部座席に慎重に名前の体を横たわらせる。そして荒い呼吸で目を開ける様子の無い名前に薄い毛布を掛け、自らも後部座席に乗り込んで枕元に腰を下ろした。

「悟空、悟浄。てめーらは宿に戻っていても構わんがどうする」
「んな状態の名前置いて戻れるわけねーだろ!ふざけてんのか!」
「俺も、名前の側にいたい!」
「……邪魔だけはするなよ」
「ねぇ三蔵、そろそろ話してくれませんか?」

邪魔、とは一体何に対して言ったものなのか。八戒は不安気に三蔵の側に立って残りの二人の気持ちもまとめて代弁するように説明を求めた。先程気でも狂ったのかと問いかけたが、そう思わずにはいられないほど、今の三蔵は落ち着き払っているのだ。終いにはいつものようにマルボロを取り出し、紫煙を吐き出している。



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