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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 ▼剴切

珍しい事もあるもんだ、と私は携帯をジッと見つめた。数分前にメールが一件来ている。差出人は「越智先輩」。件名は「頼みたい事がある」となっていて、本文には、メールよりも話した方が早いから昼休みに七組の教室まで来る、という風に書かれていた。そのメールに「わかりました」と返事を打つ。相手が相手なだけに一体どんな頼み事をされるのか検討もつかないが、面倒な事にはならないようにだけ祈って、私は昼休みを待った。



昼休み。

「ごめんねーまだご飯食べてたよね」
「いえ、それは大丈夫なんですけど…それで…頼みたい事って…?」

教室を出ると、さすがプロのモデルさんなだけあって通行人の視線が気になった。学校にいるのは誰でも知っていることなので、特別凝視したりする人はいないのだが、やはり先輩は目立つ。もう一つの理由としてはここが一年生の教室の前だから、という事もあるかもしれない。だからこそ「場所を変えませんか?」というジェスチャーを交えながら用件を尋ねたのだが、当の本人は全く気にしていないのか場所を変える事はなかった。

「あ、その前にちょっと紹介するね」

紹介?と、首を傾げると越智先輩の後ろから二人出てきた。

「えーと、二人ともあたしと同級生なんだけど、右が橋本、写真部。んで、左が郡」
「こおり…?」
「そ、『ぐん』って書いてこおり」
「郡 美由紀です。ファッションデザイナー目指してます、よろしくー」
「は、はい…」

いまいち紹介された二人と越智先輩との頼み事とが関連付けられないので、微妙な返事を返してしまった。しかし、先程紹介を受けた先輩二人は何故か私をキラキラした目で見ている。何だろう。

「お互い挨拶が済んだところで、やっと本題に入るわけだけど。ね、私の代わりにモデルやってくんない?」
「……はい?」

人物紹介があったとはいえ、あまりの単刀直入な言い方に私は驚いて目を瞬かせた。

「……モデルの件は前に一度お断りを…」
「ああ、今回はそっちじゃなくて!さっき聞いたと思うけど、美由紀はファッションデザイナー目指してるのね」
「…はい」
「それで、今週末ちょっとした大会?発表会?みたいなのがあるらしくて。最初私が頼まれたんだけど、さすがに一般の…っていうか…そういうのには出られなくて…バカにしてるとかそういうんじゃないんだけど、事務所が許してくれなくてさ…」
「えっ…じゃあそれに私が出ろって事ですか…?」

そんな大層な事は出来ない、と青い顔で首を横に振ると、郡さんが越智先輩を押し退けるようにして私の前へやって来た。

「私別にね、ランウェイとかキャットウォークで喝采を浴びようとは思ってないの!もっとこう…フリーな感じでやりたいんだよ。だから今回のも別にカメラの前で歩いてみろって事じゃなくて。写真を事前に何枚か撮って、それを他の人達の作品…というか写真と並べて展示して評価を貰うってだけなの。大会とか発表会とかそんな大層なモンじゃなくって、展覧会…っていうかエキシビションっていうか…」

エキシビション。そう言われるとまた受け取り方は変わってくる。でも、まだまだ不安要素は満載だ。

「…一般の人は来られるんですか?」
「そりゃ勿論入れるよ。でも無料だし、ちっちゃい会場だからその参加してる保護者とかが主だと思う」
「……そう…ですか」
「気が進まない?」
「だって…何で私なのかなって…」
「そりゃ越智の一推しだったんだもん!最初は疑ってたけど、実際見てみたら想像以上でビックリ!」
「美由紀ってば私の事疑ってたの?言ったじゃない、この子はその辺のモデルより可愛くて美人なんだから!」
「恐れ入りました越智様ー!」
「…はぁ」

いまいちピンとこず、微妙な返事をする。しかしそれでも郡さんは諦めないようで、しつこく食い下がってきた。

「ねっ?お願いします!勿論ちゃんとお礼はするし!」
「いえ別にお礼が云々という話では無くって…私部活もありますし」
「部活には影響出ないように気をつけるよ!ほんっとーに、お願いします…!」
「んー……」

目の前で深々と頭を下げられ、段々と断りにくくなってきた。

「…はぁ…わかりました。部活に支障が出ないなら…」
「ほんと!?」
「ええ、私で務まるんなら、お手伝いします」
「やった!ありがとう!!」

ガバッと抱きつかれて、後ろのドアに頭をぶつけるかと思った。周りの人たちも何だなんだ、と更に注目し始める始末。越智先輩は越智先輩で、後ろで腕を組んで嬉しそうに何度も頷いていた。もう…ここまできたら仕方が無い、腹を括ろう。




「…で?引き受けた、と」
「そうなの。もう写真出来上がってるんだよ」
「もう出来てんの?早くねぇ?」
「元々あんまり時間なかったし、急ピッチで進めたのよ」
「だからお前休み時間とかちょこちょこいなかったのか」
「うん」

いよいよ明日が自分の写真の発表日。まぁ、部活もあるし私は見に行くつもりは無いんだけど、出来上がった写真は何枚か貰った。と、いうか橋本さんに無理矢理持たされた。

「その写真、今あんの?」

私のベッドに座って、隆也は部屋をキョロキョロ見渡した。そりゃありますよ、私の部屋ですし。でもあんまり見せたくないというのが正直なところで、私は敢えて吃ってみせた。

「…う…ん、まぁ…あるけど」
「見せて」
「………見たいの?」
「見たい」
「…えー……」
「んだよ、別に減るもんでもねーだろ」
「どうしても?」
「どうしても」
「はー…」

渋々その場から立ち上がり、嫌々写真を引っ張り出す。そして隆也の手元に置くと、深いため息と共に彼の横に腰を下ろした。

「結構本格的なんだな」
「うん、写真部の部室使ってね、ライトとか、背景とか…結構手間かけてあるみたいなの」
「へぇ…可愛いな、お前」
「…は………」
「…んだよ」
「えっ…嘘…」
「嘘ついてどーすんだ」

思いもよらない言葉に、思わず隆也を凝視してしまった。でも本人は至って普通だ。

「…何か…恥ずかしい」
「はぁ?」
「だって…私があんまり着ないような服もあるし…絶対似合ってないよ、痛いよこれ」
「何がだよ、似合ってんじゃねぇか。あ、展覧会いつなんだ?」
「明日」
「明日か…部活あんな。それって一日しかやってねーの」
「…三日間だけど、行かないでよ?絶対行かないでよ?」
「さあな」

ニヤリ、と笑う隆也。この人の事だ、お姉ちゃんとかお母さんとかにもバラし兼ねない。それだけは勘弁してほしいと願うが、明後日から私の想像を上回るほどの出来事が待ち構えているとは、この時はまだ考えてもいなかった。




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