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They're inseparable



12月に入ったと思ったらすぐにやってくるのが、言わずもがな阿部隆也の誕生日である。今年も、名前が阿部の家にお邪魔して一緒に祝う事になっていたので、その日が偶々祝日だった事もあって、朝から名前は阿部宅へ遊びに来ていた。準備は夕方から始めるとの事で、それまでは自由に過ごす。ケーキはここへ来る時に買ってきた。阿部母からケーキの種類は任せると言われていたので、無難に生クリームのデコレーション。ろうそくは吹き消したいのかどうかわからなかったので一応電話で本人に「ろうそく、ふーってしたい?」と茶化して尋ねると、案の定「俺は幼稚園児じゃねぇ」と返ってきた。が、「でもろうそく要る」と付け加えてきたのでちょっと笑ってしまった。



「…それにしても暇だな」
「うん」

ケーキを持って阿部の家に来て、夕方まで自由にしていていいと言われはしたが、実際阿部の部屋でする事と言ったら、勉強か解析か野球の試合を見るかのんびりと会話でもしながら過ごすか…それ位しかない。女子同士なら何時間でも会話で潰せるだろうが、男子相手だとそうもいかない。しかも、あの阿部隆也だ。もう一年半以上も付き合っている名前でも、四時間以上を会話で持たせるのは無理だと踏んでいた。
では何をするか。勉強…はまだテストも近くないししたくない。撮りためていたプロの試合も粗方見てしまったし、解析はシーズンオフで切羽詰まっているわけじゃない。
お互いに悩んだ末、結局出かける事になった。

「…そういやケーキ、何にしたんだ」
「生クリーム。無難に」
「でもお前生クリームそんなに好きじゃねぇだろ」
「だって私の誕生日じゃないし。隆也は何でも好きでしょ?」
「だからさ、お前の好きなやつでも良かったじゃねぇか」
「シュンちゃんと隆也のお父さんが生クリーム好きって言ってたし…」
「まー…そうだけど…」
「気にしないで、私食べれないわけじゃないし。というか今日は隆也がメインなんだからね」
「あぁ」

玄関を出て、適当に歩きながら会話をする。しかし目的地を早めに決めないと、このままずっとぶらぶらするだけになってしまう為、名前はダメもとで阿部に行きたい所はないかと尋ねた。案の定「特にない」と返ってきたが、予想の範囲内なので名前は小さく息を洩らしただけにとどめる。実際のところ、名前も行きたい所が無いのだ。相手ばかり責めるわけにはいかない。

「…学校にでも行くか」
「学校?」
「誰かいるかも」
「…珍しいね、自分から会いに行こうなんて」
「お前なぁ、俺のことなんだと思ってんだよ。ここまでやることがねぇとなるとさすがにな…」
「そうよねぇ…ふふ、一般的なカップルだったら二人きりの時間を大事にしたい!みたいな事言ってこの時間を貴重がるんだろうけど」
「そんなもんなのか?なんつーか、名前と一緒に居過ぎて実感わかねぇ」
「じゃあちょっと距離置いてみる?」
「…やめろ」
「冗談よ」
「…ビビらせるなよ」

まさか本気で名前が自分と距離を置きたがっているのかと一瞬思い、すぐに冗談だったという事がわかって、阿部は安堵の胸を撫で下ろした。
そうして二人は一旦阿部の家へ戻り、自転車に乗って学校を目指す。名前の自転車は自宅にあるので、わざわざ取りに行くのも面倒になり、ニケツで行くことにした。



「…おいあれ、田島じゃねーか?」
「どれ?あ、本当だ」

学校付近まで差し掛かった所で、目線の先に見知った人物が電話をしながら歩いている。向かう方向が同じということは、学校に行く途中なのだろうか。しかし、田島の自宅がある場所から考えると、ここにいるのは些か不自然なような気もする。

「ーーー…おう、じゃあ待ってるからな!……ん?あ、阿部じゃん!」
「よう」
「なんでお前こんな所にいんの?あっ、名前もいる!」

電話を切り終わった後すぐ、阿部達の存在に気づいた田島は、立ち止まって自転車が追い付くのを待った。不思議そうに首を傾げる田島の手には、先程は気付かなかったが、サッカーボールが抱えられている。聞けば、暇だったからその辺で遊ぶ所がないかとぶらぶらしていたが結局見つからず、他に暇な人を集めて学校でサッカーをやろうと思いつき、電話をかけていた途中だったらしい。今のところ捕まったのが、三橋と泉と花井。それから栄口と水谷、西広だ。それに阿部と名前も加わる事になる。

「花井も来んの?あいつちょっと遠いだろ」
「暇だから来るってよー?」
「暇な奴多いな」
「ま、この時期じゃね」

それもそうか、と田島と共に歩き出した。

「つーか阿部達も暇だったからこっち来たんだろ?」
「まぁな、夕方まで時間が空いてさ」
「夕方?何かあんの?」
「あー…」

言葉を濁す阿部の隣で、名前がクスリと笑う。一方でわけがわからない田島は、阿部に詳しく問いただそうとするが、一向に口を割らない阿部。田島は結局諦めてしまった。

「…自分で俺、誕生日なんだ。とか言えないもんね」
「あたりめーだ。それに別におめでとうをせがむ歳でもねぇしな」

田島に聞こえないよう小声で話すと、阿部は苦笑し肩を竦めた。確かに…と名前は、阿部が皆に「誕生日だから祝ってくれ」と強請る姿を想像して、思わず吹いてしまった。それを見た阿部に文句を言われながら軽く頬をつねられたのは言うまでもない。


「おー三橋、やっぱり早かったな!」
「た、じま…君…と阿部君…名字さん…まで…」
「さっきそこで会ってさー。あ、水谷と西広も来たな!」

学校のグラウンドへ入り、動きやすいようにマフラーや手袋を外していると、続々とメンバーが集まってくる。少し遠い組が若干遅れているが、しばらくすると全員揃った。
早速始まるミニサッカー。名前は少し離れた場所で見学していたが、楽しそうに遊んでいる皆を見ていたら段々と寂しくなってきて、ついそばまで歩いて来てしまった。ある程度の距離まで来た所で、泉に「危ねえぞ」と心配されたが、大丈夫、とその場に居させてもらった。ゲームのルールはその場で適当に決めたもので、どうせ人数もサッカーのルール通りには集まらないから、と結構簡単なルールにしてある。試合時間を十五分と決めて、その中で点数を多く取ったチームが勝ち、というものだ。時計係に任命されていた名前は、携帯で時間を確認しながら、試合を眺める。そしてピッタリ十五分後に手を上げて制止させた。

「やったー俺達の勝ち!」
「田島は本当強いな…」

十五分走りっぱなしで暑くなったのか、花井が上着を脱ぎながら田島を眺めた。それに続くように他の皆も上着を脱ぎ始める。

「いーなー私もサッカーしたい…」
「バカかお前は。スカートだろうが」
「タイツ履いてるよ」
「ダメに決まってんだろ」
「ちょっと隆也、ズボンも脱いでよ。私のと交換しよ」
「俺にスカートで走り回れってか」
「俺が脱ごうか?俺パンツでも平気!」
「いやいや田島君、ダメだよそれは」
「えーっ、じゃあ…誰かズボン二枚履きしてる奴とかいねーの?」
「誰もいねーよ」

泉のツッコミが入り、この話はこれっきりになった。名前もしょうがないか…と諦めて、その辺に脱ぎ散らかしになっている皆の上着等を集め、土を払って畳んで隅っこに置いてあるベンチの上に並べた。

それから数時間後。
すっかりヘトヘトになった皆は、その場で解散してそれぞれの帰路へついた。辺りは薄暗くなり始めて、気温も下がり始めている。

「…さむ…」
「俺の上着も着るか?俺暑ィ」
「汗かいたまんまだから風邪引くよ?上着ちゃんと着ておかないと」
「…でもお前寒いだろ?」
「平気。とにかく早く帰ろう、おばさん達待ってる」
「そうだな」






「はい、これ」
「何?」
「プレゼント」
「ああそうか…サンキューな。今開けていいのか?」
「うん、開けて開けて」

誕生日パーティーが終わり、阿部の部屋で名前はあらかじめ用意しておいたプレゼントを渡した。

「……洋服?」
「そ、冬用の上着。男子高校生って何あげたらいいかわからなくて…隆也って服に頓着無いから私が選んでも大丈夫かなって…ダメだった…?」
「そんなことねーよ。ありがとな、助かる。俺よくわかんねーから適当にいつも着てるけど、こういうのって幾つかあった方がいいもんな」
「うん…一応今後成長することも考えて、少し大きめ買ったから来年位までなら着られるかも」
「サンキュ、大事にする」

その上着を持ったまま、阿部は名前を抱き寄せた。実際、名前からだったら何を貰っても嬉しいのだ。それなのにこんなにも悩んで、迷って。冬用の上着なんてそんなに安い物じゃないだろうに、自分のために買ってくれて。阿部はその彼女の気持ちが一番嬉しくて、とにかくギュッと、抱き締めた。

「隆也、誕生日おめでとう」
「あぁ…ありがとう…」




They're inseparable
(from each other‥)



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