「固いですね」

「そりゃそーだろ」


膝の上で不満を零す頭をはたくと、小さく呻いて額を押さえた。

部活後の部室は湿度が高い。熱中症に気をつけましょう、毎日のように同じ言葉を掲げる天気予報、こいつは注意のままにダウンしてしまったらしい。練習試合を終えて挨拶もままならないまま部室に運んで今に至る、心配しながら帰っていくチームメイトを見送るうちに、いつの間にか二人だけになっていた。


「別にいつも通りだと思ったんですけど」

「いいからこれ飲め」


渡したスポーツドリンクを飲み干すと、また膝の上に寝転がる。さっき固いと文句を言ったばかりの膝に。


「皆帰っちゃいましたね」

「ああ」


外は夕焼け、日が長くなっていつまでも夜が来ないような気分になる。まだずっと一緒にいられるような。


「これ敷くか?」

自分の首に巻いたタオルをほどく。あ、でも散々汗拭いたやつだった、思い出してまた首に戻そうとするとふいに引っ張られた。


「…タオル」

「や、これ汗拭いたやつだから」

「別にいいです」


ずるりと引っ張られて黒子の顔にタオルが落ちる。そのままじっと動かない、どうしたのかとタオルをどかすと目を閉じた黒子が現れた。


「…お前何してんの」

「火神くんの匂いだなと思って」

タオルから顔を半分覗かせる。ぼんやりと潤んだ目。額に手を当てたけれど熱はない。



「俺のイメージって汗の匂いかよ」

「そういう訳じゃなくて、好きだなと思って」

起き上がると同時にタオルが顔からぱさりと落ちた。どちらからともなくキス、ユニフォームを掴む手に力が入る。



「……ん、…ぅ、」

寄り掛かるようにもたれていた身体を持ち上げて膝に乗せる、そのまま腕が伸びて首に絡まってきた。冷房が切れた室内に響くのは漏れる声と水音。


「ん…、……ふ、ぁ」

布越しに固いものがぶつかる。


「火神くん、…したいんですか?」

「……お前もだろ」


膨らみに触れると、あ、と小さく声を漏らす。そのまま人差し指を滑らせると、上げる声に比例して質量が増していく。


「…ぁ、ぁ…」

ぎゅ、しがみついたまま、耳元で響く小さな喘ぎにぞくりとする。短パンの隙間から手を滑り込ませると中心でくち、と濁った水音がした。湿った指先。


「…あーお前、染みてんじゃん…」

「っぁ…ん、…」

このままじゃユニフォームに染みるのも時間の問題だ、手を掛けて下着ごと脱がせる。黒子のものが現れると同時に先走りが透明な糸を引いて落ちた。


「ほら上も…」


脱がそうと手を掛けた瞬間、倒れ込むように抱き着いて口付けてきた。舌を絡めながら脱がそうと服を引っ張る腕、待ちきれないと言うかのように手を差し込んで俺のものを取り出した。


「…はやく、…」

蒸し暑い室内で密着して汗ばむ身体、こめかみから汗が一筋流れた。自分で拭うより早く黒子の顔が近付いて、ぺろりと舌で舐め取られる。ゆっくりとベンチに押し倒されて反転する視界と広がる天井、覆い被さって笑う顔はいつもより艶っぽく見える。



「ん……ぁ、んっ…」

ぎち、鈍い水音と飲み込まれる感覚。うねる内壁。痛みで歪んだ顔が徐々に緩んで、

ゆっくりと突き上げると背中を奮わせて喘ぐ。


「っぁ、…ぁんっ、ぁ、あ…!」


握られる手首、速度を増すと繋いだ箇所がしだいに汗ばんでいく。

ガタン、音が聞こえた気がして振り向く。小さな話し声が聞こえた気がして動きを止めると、不満そうな呻き声。
顔を戻すと、目は潤んだままでこちらを見つめていた。


「…どうしたんですか、」

「いや、今…」

「……止めちゃ、嫌です」


一瞬不満そうな目で睨んだかと思うと、肩に手をついて腰を動かし始めた。誰かいるかもしれないのに、止める間もなく喘ぎ声を漏らし始める。



「…っん、ぁ、…っあぁ…!」

ぐちゃ、ぐちゃ、ぬめる音と感触。角度を変えながら腰を揺らし続けている。恍惚として笑う顔。


「あっ、ぁ、かがみく、…いつもの、…っ」

身体を起こして抱き抱える。抱きしめ合えるからこの体勢が好きらしい。突き上げると声が大きくなっていく、誰が聞いてようがもうどうでもいい。必死にしがみついてくる身体を啄む。白い肌に残っていく朱い痕。


「っぁ、だめ、もう…っ」

首筋を舐めると塩辛い、締め切ったままだから室温は外と同じか、それより暑いくらいだろう。抱き抱えた背中はじっとりと汗をかいている。


「んっ、ぁあ…ぁ、っあ!」

回した腕を下腹部へと移動させる、溢れる体液で濡れたものに触れると切なげに声を漏らす。


「やぁ…ぁ、ぁん…っ」

上下に扱くと耐えられないというように身体をよじらせる。動きに合わせてくちくちと響く音と手に絡み付くカウパー液。ドアノブの音、静寂。どうやら消えていったらしい。


「ひぁ、ぁ、…ぁっ、…あー…!」

倒れ込みながらまた抱き着いてくる。耳元で大きくなっていく声、高ぶって速度が増していく、射精感。このままだとお互いのユニフォームが汚れてしまう。速度を緩めようとすると黒子に口を塞がれた。


「…中だして、いいから、…っ」

返事をせずに突き上げる、お互い汗と体液でべたべたで、貪るように舌を絡め合いながら。まるで獣みたいだと思った、獣もキスをするんだろうか、求め合う過程に愛だの何だの存在するんだろうか。俺達がこうして抱き合うのも単なる性欲なんだろうか、ぼんやりと分析する余裕があるのは頭だけ。

首筋に顔を埋めて喘いだまま、ぎゅう、と回された腕に力が篭る。


「っぁ、っ……す、…き…っ」

「……っ、」


綺麗だと思った、
愛おしいと思った、

途切れ途切れの言葉としがみつく腕と、零れる透明な涙を見ていたら、ただそう思った。


違う、こういう行為をしたいのは性欲だけじゃなくて、それ以上に、



「っもっと、ぁ、あ、…っあぁっ……!」


好きだから触れたいんだ、奥まで。
















「…君って、キス、好きですよね」

「…んー」


抱きしめたまま何度も口付けているとふいにそう言った、手の平を返すような態度。さっきまでのお前はどこ行ったんだよと呟くと、知りませんと返ってきた。でも、今度は抱き着いて。


「…時々、」

顔を埋めて呻くように呟く。


「時々、恥ずかしくて嘘をつきたくなります」

「…何がだよ」

「僕ばっかり好きみたいで」



そう言うと顔を上げる。正面に現れたのは少し赤くなって、悔しそうな顔をしてこっちを見つめる黒子。


「君が好きです。考えなしに動くところも、一つのことを考えると突っ走るくらい馬鹿みたいにまっすぐな所も、子どもみたいに笑うのもムキになる所も。全部好きです、でも僕ばっかり好きみたいで。だからそれを見せたくなくて、でもいつの間にか見せてしまっていて恥ずかしくて。本当は嬉しいです、……キスだってもっと、したい」


淡々と、でも一気に話し終えると、はあ、と息をついた。黙っていると、恐る恐る様子を伺うような上目遣い。


「…馬鹿は余計なんだよ」


思いきり抱きしめると、火神くん苦しいです、とくぐもった声。無視してさらに力を込めると、もう、と諦めるように笑う声がした。


「馬鹿力」

「…悪いかよ」


いいえ、薄く微笑みながら額をくっつけてくる。お互い汗でぐちゃぐちゃになった前髪に、二人顔を見合わせて笑った。


俺だって、お前のその冷静なようでいて実は頑固な所とか、時々見せる柔らかい笑顔とか、二人きりだとたまに甘えてきたりだとか、知ってるのは俺だけだと思いたい。隙あらば抱きしめてキスしてそれを繰り返していたい。要は好きだ。好きで好きで仕方ない。

今度は俺の番だ、口にするのは。妙に照れ臭いし顔見て喋るなんてまっぴらだから、抱きしめたまま。顔を見せろと言ってまた不満げになるかもしれないけど。


「…俺だって、」


でもその前にもう一度。


口付けた、

今度は笑った。まっすぐに。















「はよーっす」

「おはようございます」

「!火神に黒子……」

「?どうしたんですか固まって、……何か?」


あーあ、話広がるのって早えーな。溜息をついても隣の黒子はきょとんとしたまま。



「つーかお前気付いてた?」

「何のことですか?」

「いや、じゃあいい」


俺はその後、黒子の質問攻めを受けることになる。


「火神くんどうしてでしょうか、今日はパスが全然うまくいかなくて」

「…たまたまじゃね」


それはきっと、この間の話が一気に広まって。



「アイコンタクトをした瞬間動きが皆止まるんです」

「……たまたまじゃね」


それはきっと、首筋に残してしまっていたキスマークが目に入って。



「聞いてますか?火神くん」

「…聞いてる聞いてる」



押し黙ってスポーツドリンクを流し込む。あの時も始まりはこれだったな、視界に入るボトルを眺めてそう思いながら。



























*******
火神お誕生日おめでとう!

誕生日全く関係ないですが、改めて行為の意味を考えて相手への気持ちを確認する、そんな二人であってほしいと気持ちをこめて。


20120802
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