雨音だけが響いている。
もうじき梅雨入りが宣言されるだろうか、ぼんやりと考えながら、腕を回した背中に頭を押し当てた。
「お前いつまでくっついてんの」
「やめてほしいですか?」
「別に」
それきり会話は終わる。
背中越しに耳に響いた声は消えて、聴こえるのはまた雨音だけ。
時折、雑誌のページをめくる音。
「…火神くん、雨嫌いでしょう?」
「あ?…あー、まーな、外でバスケ出来ねーしな」
またバスケ。
中腰になって背中に覆い被さる、後ろから覗くと、雑誌はやっぱりバスケの専門誌だった。
「バスケ馬鹿」
「なっ、お前もじゃねーかよ!」
一瞬振り返ったからその隙にキス。
突然のことに少し驚いた顔を見せたけれど、そのまま互いに目を閉じた。
このまま時が止まってしまえばいいのに、そう思いながら。
何秒か経って唇が離れると、何もなかったかのように前を向いて雑誌を読み始める。
やっぱりバスケ馬鹿だ。
「そんなに面白いですか?」
「まーな」
首に腕を回して顔を埋める、石鹸に混じった火神くんの匂い。
「…雨のときは読書家になるんですね」
「まー読書っつーか雑誌だけど」
「君にしては珍しい事です」
失礼な奴、と言いながら視線は雑誌に落としたまま。
「やることないなら、別のことしませんか」
「…別のことって?」
やっと雑誌から顔を上げた。こっちを振り返った隙に雑誌を取り上げる。
あ、と小さい声がして、眉を潜めて文句を言おうとする、その口を塞いだ。
「………っん、…」
舌をねじ込ませて歯列をなぞる、首に手を回して強く引くと、バランスを崩した彼の身体が倒れ込んで、上に覆い被さってきた。
「こういうこと、とか」
足を絡めて下半身を擦り寄せると、硬くなった彼のものが足の付け根に当たった。
「…………お前、」
「何ですか?」
大きな右手が頬を包む。
温かくて気持ちがいい。
「お前のそういうとこ、……」
「?なん、……んっ、…ふ」
啄むような優しいキス。髪を撫でていた手が段々と下へ下がっていく、肌に触れる度にぞくりとした。
「…ふ、…ぅ、ん」
キスが深くなるにつれて、捲り上げられたシャツの裾から手が入り込んできて、胸の突起を触り始めた。
「っぁ、…!」
唇が離されたと思うと、もう片方の突起を舌先が襲う。
「っやぁ!っぁ、ぁ…っ」
片方を指で弄りながらもう片方を舌先で舐められて、転がされて、おかしくなりそうになる。カチャ、とベルトが外される音がして、下着とデニムが引き下げられた。
「…っぁ、ゃ、っひぁ!」
自身がぬるりとした咥内に包まれる、ぴちゃぴちゃと響く水音が逆に興奮を呼び覚ます。
「…っぁん、っあ!……だ、め…っ」
達してしまいそうになって、慌てて突き飛ばす。下を見ると、不満そうな顔をした火神くんと目が合った。服を脱ぎ捨てて、現れたのはすでに大きくなった彼のもの。
「ぅ、…ん、」
硬さを帯びた彼のものに舌を這わせると、時折小さく呻くのが嬉しい。
これが入ると思うと腰の疼きは収まるどころか増すばかりで、先走りが滲み出るのが見なくても分かった。
脚を広げる、
はやく、
「…はやくいれて、っ……ひ、ぁ…!」
口にした瞬間、彼の腰が潜り込んできた。
彼のものが内壁にめり込んでずぶずぶと音を立てる、鋭い痛みが走ったけれど、それはすぐに快感に変わった。
「っあ、ぁ!…っぁ、ん…、ふ」
ピストンされながら口付けられる、この瞬間がとても好きで。
「んっ…ぁ、ゃ」
首筋を次々と甘い痛みが襲う。
跡が残るかもしれない、でも、彼の所有物のしるしのようで、少し嬉しいのも事実だ。
「やぁ、…もっと、…ぁんっ、ぁっ」
溢れた先走りが自身を伝って、結合部はぐちゃぐちゃに濡れていた。腰の動きに合わせてぬちゃぬちゃと水音が響く、
「っやぁ!ぁっ、そこ、っ…」
「っやべ、…っで、っ……」
「ん、ぁ…!」
突然動きが止まった。
と、中でどくりと彼の自身が震えて、熱いものが注ぎ込まれるのが分かった。
「…わ、…悪い」
どうやら彼は達してしまったようで、
荒い息をつきながらばつの悪そうな顔をしている。
「すぐ抜くから…」
「…やです」
「え?」
まだ足りない。腰を動かすと、彼の出した精子がごぷりと音を立てる。ぬるぬるして、中に入った彼のものと絡み合って、
「…そのままでいいから、…もっと、して」
すごく気持ち良くて。
「っあぁ!ぁっ、やぁっ、ぁんっ」
達したばかりだというのに、彼のものは全く萎えていなかった。
縋るように抱き着いてしがみつく、僕のために動いて、汗ばんでいるこの身体がとても愛しい。
「ぁん、や、…っぁ!」
一番奥に当たって背中が弓なりに反ってしまう、
「っぁ、あっ…っあ!」
「…っやべ…」
耳元で、余裕のない声が聞こえた。
打ち付ける速さが増す、どこにも触れていないはずの僕のものが張り詰めていくのが分かった。
「っかがみく、…い、っちゃ、っぁ…ぁ!」
キスをしたくて必死に身体を起こすと、察したかのように舌が絡め取られた。
「っふ、ぅ、…っん、ん――っ……!」
「あの、火神くん」
「ん?」
「続き、教えて欲しいんですけど」
「続きって何の」
「『お前のそういうとこ』の続き」
「…あー、………忘れた」
そう言ってまた雑誌を手にとる。
「…バスケ馬鹿」
「おう」
「火神の馬鹿!」
「っあぁ!? なんかそれバカガミって言われるよりムカつくんだけど!」
…本当は、
「火神くん、好きですよ」
「…ん」
「火神くんは僕のこと好きですか?」
「………………まーな」
本当はちゃんと聞こえていたよ、
普段滅多に口にすることのない君の、
『お前のそういうとこ、好き』
数少ない愛のことば。
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そっけない火神に誘い受け。
たまに火←←黒になるのもいいと思います。