静かに響く、ディスプレイに触れる指の音。
いつまでたっても止まない、
時計を見るのは何度目だろう。
「またファンの子からのメールですか」
「ちょっと待って、今送信…あ、また」
「人気者ですね」
少し笑って、また指を動かす。
厭味は通じていないようだった。
隣にいるのに、近くて、遠い。
「一番は黒子っちっスよ」
「…そうですか」
キスしようと近付く顔に背を向けて床に広げられた雑誌を拾う。
ページの中では黄瀬くんが笑っている。
「『黄瀬くんに100の質問』」
「あー、それ」
インタビューする方もされる方も大変だっただろうな、ぼんやりと考えながらページを眺める。
『好みのタイプは?』
…これを読んで、女の子たちは、この言葉通りの女性になろうとするのだろうか。
黄瀬くんと付き合いたいと、思うのだろうか。
…黄瀬くんは、どんな気持ちでこのインタビューに答えたんだろう。
「…これ、女の子向けですよね」
「そうっスね」
女の子にモテるのは当たり前だ、今だってこうして、ファンの子たちとやり取りをして、交流を持って。どんな子にも笑顔を向けて、ファンサービスと言えばそれまでだけど、
でも、それは、
…それは、僕だけのものなのに。
胸につかえた何かが重い、
「…僕と一緒にいる意味、ありますか」
一緒にいても、こうして女の子の影をちらつかせて。
外じゃ出来ないことだってたくさんあるのに、二人きりでいられる時間は少ないのに。
他の誰かに送るメールを打つ音なんて聞きたくない、耳を塞いでしまいたい。
醜い感情がぐるぐると廻る、
こんな気持ちになると分かっていたら、
あの時、抱き締める腕からすり抜けていたのに。
「…帰ります」
「黒子っち、」
「ついて来ないでください」
声が震える、僕は平静を保てているだろうか?
精一杯の強がりだ。
「黒子っち!」
追いかけてくる音が怖くて、飛び出そうと玄関のドアノブに手をかけた瞬間、
「っ!」
ぐ、と強い力に腕を引っ張られた。
「…離してください」
「嫌」
込められた力が痛いくらいだ、
後ろを振り返りたくない、
だって、
「…泣いてるじゃないっスか」
「な、………っん…!」
泣いてなんかいない、唇が塞がれて、そんな嘘さえつくことができない。視界がぼやけて顔が見えない、
「…んっ………、ふ」
なぞられる舌が熱い、涙が伝って塩辛い味。
「…ごめんね」
耳元に響く声は優しくて、
自分がこの声を求めているのが分かった。
「寂しかった?」
「………、っ…」
嫉妬だなんて、分かっているからこそ認めたくなくて、顔を背ける。
「…もう寂しくさせないから」
頬に、首筋に、キスが落とされる。
「許してくれる?」
頷く代わりに、
背中に回した腕に力を込めた。
「……んっ、…ぅ」
身体が熱い、咥内をまさぐる舌に、くぐもった声が出る。
「…っひ、ぁ!」
するりと伸びて、デニム越しに自身をなぞる手。白くて少し骨ばった彼の手が動くのが視界に入る、
「っぁ、ん…、っあ!」
下着の隙間から伸びた指が尿道に触れて腰が浮く。くちゃ、と音がして、恥ずかしくて下を向いた。
「…濡れてる」
歪む口元はずるい、優しくて意地悪で、
「…っあ!ぁ、やぁん…っ」
ぴちゃぴちゃと音をたてながら耳を舐める舌、筋をなぞりながら尿道を指の腹で弄られる。
「…っぁ!…あ、ゃ、だめ…っ!」
どくん、
彼の手の中で自身が波打って、白濁が溢れ出た。
「…っぁ、ぁ…」
顔が熱い。茫然とするその間にも精子は吐き出されて、彼の指を汚していく。ねっとりと下着に絡みついて気持ち悪い。
「…可愛い」
薄く微笑むと、精子でべとべとになった指をぺろりと舐める。
「…や、汚ない、っ…」
「全然。黒子っちのだから美味しい」
恥ずかしくて何も言い返せずにいると、
「もっと食べていい?」
黙ってしゃがみ込んで、
「…っあ!」
達したばかりの自身を口に含まれる。
「ぁ、やぁ…!だ、め…っ」
まだ少し痙攣するそれは、絶え間ない刺激にひくついて、おかしくなりそうになる。
「っぁ、あ…!っぅん…!」
舐められるにつれて、萎えていた自身が再び硬度を増す。重力に負けてデニムがずるりと床に落ちた。ベルトの外れる音。片足が持ち上げられて、猛った黄瀬くんのものが当てがわれる。
「っん、ぁ、…あああ…!」
内壁を突き抜ける、熱くて硬い、抉るように潜り込んでくる。
「…痛い?」
「…へ、いき…っ……っぁ、」
黄瀬くんのものに絡みついた先走りが潤滑油になって、痛みを伴うことなく奥まで入り込む。
「……っん、ぁ…」
もう片方の足を持ち上げられる、ズボンはだらしなくずり落ちた。
「…おいで」
繋がったまま、下から抱き抱えられて。
身体を支えるものが何もない、バランスを崩してしまいそうで必死に抱き着いて、両脚を彼の背中に絡める。
「………ふ、あぁ…っ!」
がくんと腰が落ちる、その度により深くまで入り込む、
「っぁあ!っあ、ぁっ、」
突かれる度に押し寄せる甘い疼き、
「ぁ、あ!っあ、ぁぁん…っ」
グチュグチュと水音が響く、玄関にいるのに声が抑えられない。
「…っやば、気持ちい…っ」
「……っん、…っ」
感じてくれているのが嬉しくて、きゅ、と結合部に力を込める。と、驚いたように目を見開いた。
「っ、締め付けちゃダメだってば、」
「………ふふ、」
余裕のない黄瀬くんに、少し勝てたような気がして笑うと、
「…おしおき」
「っあ!っあ、あ、あぁん!」
途端に強く突かれ始めた。
乱暴で無茶苦茶な動き、角度を変えながら打ち付けられる。
「だめ、っぁ、やぁっ…!っあ、あぁっ」
突かれる度に柔らかい粘膜がグチュグチュと音を立てる、二人の間に挟まれた自身が擦れて、何も考えられない。
「っひぁ、ぁ…!…い、く、いく、」
「…んっ…、」
「…あ、ぁ、あぁぁ…っ!」
「…ファンの子からのメールって、報告されるのが嫌なんです」
「うん」
「女の子の声援に答えるのも、見ていたくないです」
「うん」
「…女の子とメールしているのも、嫌です」
「…うん、」
顔を見れなくて、胸に頭を押し付けて話し続ける。背中を撫でる手は温かい。
「ごめんね」
「…黄瀬くんが謝ることじゃ」
小指を目の前に突き付けられる。
「…女の子に笑顔向けるの、止めるのはちょっと難しいっスけど」
「分かってます」
仕事柄仕方のないことだ、自分でも分かっている、これは単なる我が儘だということ。
「でも、もう、ファンの子と連絡とらないっス」
「…本当ですか?」
顔を上げると、すくうように顎をとられて。
「…もう二度と泣かせない」
触れたまま離れない、優しいキス。
『指きりげんまん』
子どものように、何度も何度も指を絡めて。
「約束ですよ」
「…誓います、」
抱き締めたまま、囁いて。
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テーマは『嫉妬』『仲直り』、アンケートから頂きました。
素敵なシチュをありがとうございました!
2012、黄瀬誕生日。おめでとう!