「テツ」
「あ、おはようございます、青峰くん」
「これやる」
「ありがとうございます、」
顔を見ずに差し出したシェイクは、テツの手中に収められた。
「…これ、どうしたんですか?朝からマジバに寄ってたんですか?」
真っすぐな質問に、
「…そーだよ、間違えて頼んだんだよ」
わざわざ寄って買ったなんて、口が裂けても言えない。
「黒子っちー!おはよっス!」
「黄瀬くん、おはようございます」
テツの左側から飛び出す金髪頭。
朝から大声で喚いてうるさい奴、こういう時こそ緑間がいれば説教してくれるのに。『黄瀬、朝からうるさいのだよ、近所迷惑だ』とか何とか言って。
ついでに『消えろ』とか言えばいい。
「あっバニラシェイク!一口貰っていいっスか?」
何言ってんだお前、テツはまだ口付けてねぇぞ。だいたい人から貰ったものを早々、ましてや黄瀬なんかに譲るわけ、
「いいですよ」
っえーあげんの!?
やったー、とか喜んでいる黄瀬を横目で睨む。
テツはいい、優しさってやつだよな?
でもこいつは気に食わない。
「黄瀬、まじお前死ね」
「えっ?え?何なんスか朝から!?」
「いいからいっぺん死ね」
「青峰くん駄目ですよ、そういう事言うのは」
ひょこり、首を傾けて窘めるテツ。
何だよその角度、…可愛いから許す。
「じゃあお前生きてていいよ」
「何なんスかその上から目線!?」
「黄瀬くん、良かったですね」
「いや黒子っち、それも何か…」
どうもうまくいかない。
結局テツはシェイク飲んでねーし、
せっかくテツのために買ったのに。
こんな回りくどいことしなければいいのに、
分かってるよそんなの、
自分が一番分かってる。
「テツー、昼休みバスケしねぇ?」
「すみません青峰くん、今日は緑間くんに手伝いを頼まれてて」
「じゃあ部活の後どっか寄って帰ろーぜ」
「いいですけど、今日はミーティングが長引きそうだからまた今度にしませんか」
「………分かった」
一緒にいる機会さえない。
事あるごとに黄瀬が割り込んでくるし。
なんでうまくいかないんだ、
何が悪いんだよ、なんでこんなにイライラするんだろう、
なんで、
「っあーまじ意味分かんねー!!」
叩いた机が大きな音をたてて揺れた。
はずみで床に落ちたプリントを拾って我に返る。
『夏の強化合宿について』
「…あ」
「………………青峰、」
顔を上げると、赤司が物凄い形相でこちらを睨んでいた。
「今の説明に何か不満でも?」
「いやこれは」
「意味が分からないのは普段から集中していないからじゃないのか」
「や、まぁ」
「今すぐ外周走って来い、10周だ」
青峰くんどうしたんですか、隣から小さく話しかけてくるテツの顔が、気まずくて見れない。
「ぶっは、あ、青峰っち、…」
肩を震わせる黄瀬を思いっきり殴ってやりたい、衝動を必死に堪えて席を立つ。
くそ、うまくいかねーことばっかりだ。
「…最近青峰くん、何か変ですよね?」
「何かあったの〜?」
「死ねって言われる回数が増えたっス」
「その光景はいつもの事なのだよ」
「…………この期に及んでお喋りとは、良い度胸してるな?君たち」
「あー、くそっ」
モヤモヤする。
別に黄瀬が嫌いな訳じゃない、
死ねって言うのも、本当に思って言ってる訳じゃない。
ランニングの時、いつも隣でへらへら笑いながら勝負仕掛けてくるのだって、うぜーけど実は嫌いじゃない。
それでも、
無言で息を吐きながら懸命に後ろをついて来る小さい身体、それだけは誰にも譲りたくないんだ。
「…これ、テツと一緒に見てーなぁ…」
淡い水色が群青と絡まりながら染まって、夕焼けに溶けて滲む、
綺麗な物、見せたい物、
一緒に共有したいのは、いつだってテツだ。
「あーくそ…」
もどかしさで喉が詰まる、
言えないからだ、伝えたいのはたったの二文字なのに。
今はまだ、まどろっこしいやり方しか選べない。
…どうか伝われ、
早く伝われ、
この二文字。
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続きはまたあした、
どうやってすきをつたえよう。
なかなか行動に踏み出せない青峰。