!火黒前提
「…んっ、ぁ、ぁ、…っ」
スプリングの音に合わせて響く声と水音、カーテンの隙間から差し込む夕陽が白い肌を照らして、いつも以上になまめかしい。
「っあ、ぁ、そこ、…っ」
「ここ?」
「っぁ!ぁんっ」
一点を突くと、悲鳴にも似た高い声をあげる。必死にしがみついてくる身体を抱きしめる。汗ばむ身体も、目尻からうっすら流れる涙も全て可愛くて、愛しくて、突き上げながら身体じゅう啄んで、跡を残していく。
「っぁ、ゃ、だめ、…っ」
「何が駄目なの」
「っぁ、跡は、かが、っん……!」
アイツの名前を口にしようとしたから塞いでやった。
アイツの名前なんて呼ばせない、今は二人きりなんだから。
「んっ、ぅ、っんんー!」
咥内を犯すように舌で掻き回しながらピストンを続ける、突き上げる度に中でぐちゅぐちゅと音をたてる。
「っや、ぁ、っもうっ…」
「イキたい?」
こくこくと頷くのが可愛くて堪らない、俺の動きに合わせてあがる高い嬌声。
張り詰めた先端の先走りはぬらぬらと光って、太股が痙攣し始めて絶頂を知らせる、それに合わせてピストンの速度を上げる。
「あ、ゃ、い、いっちゃ…っ」
「いいよ、イって」
「っぁ!あっ、や、ぁ、あぁぁっ…!」
「…っん…」
「今日はいつもより激しかったっスね」
「…そうですか?」
さっきまで上げていた声が嘘のように低い、でもほんの少しの余韻を残したかすれ声。
キスをしようと顔を近付けると、さらりとかわして布団に潜った。
「…ケンカでもしたの?」
「……別に」
そっぽを向いて呟くと、それより、と続けてこちらを睨む。
「…跡、残ったんですけど」
「んー、わざとっスから」
「なん、っん…」
文句を言おうと顔をこちらに向けたから、その隙に口付けた。
「…わざとですか?」
「うん、わざと」
でもきっと、そんな跡に気付いたって何の変化もないんだろう。この関係も、アイツはとっくにお見通しみたいだから。
「…なんで、そんなに優しいんですか」
俺の腕に添えられた手は、微かに震えている。
「どんなに優しくても、」
小さな呟きは空気に溶けて消えた、
「僕は、君を好きにはなりませんよ」
「…知ってるっスよ」
「じゃあなんで、」
苦しそうに歪んだ表情、
自分から呼び出して、貪るように求めていたのは君なのに、
突然夢から醒めたみたいに。
「だって、」
だって、好きだから。
ただそれだけ、それだけなのに、
声がかすれてうまく喋れない。
口にできないのはどうしてなのか、
逃げてる自分が情けなくて、悔しくて?
それとも、狡猾に立ち回る君への憤り、やるせなさ?
きっと答えは全てにイエス、
ぐちゃぐちゃした感情を微塵も認めたくなくて、黒子っちを抱きしめてごまかす。
黙って腕の中に収まる君、
こんなときこそ逃げればいいのに。
黙って背中に腕を回す君、
こんなときこそ突き放せばいいのに、
突き放してくれればいいのに。
ずるい、
「好きだよ」
そんな所も。
「…知ってます」
泣きそうな顔をして笑う、その表情さえ愛しくて。
どれだけ繋がっても君は遠いまま、だけど、君があげる声も見せる表情も、その瞬間は俺のものだから。
永遠の平行線だと分かっていても、
ひと時でも君を独り占めできるなら、いつでも飛んでいくから。
「…次はいつ?」
「………連絡、します」
「……待ってる、」
無意味さも焦燥感も、
今はまだ、知らなくていい。
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火黒前提、黄黒。
『Stockholm Syndrome』とは違う設定で、どちらかというと黄→火黒の黄黒。
都合のいいときだけの関係、それでも良いから触れたくて側にいたくて、ただ連絡を待ち続ける。
20120601