ざわめく体育館。
全国のトップが決まる、その瞬間に立ち会おうと集った人々。
この空間にいる人たちは、皆バスケが好きで、…一部を除いて、だけれど。
全力で毎日トレーニングをして。
この中に、優勝したいと思わない人はいないはずだ。
そして、『プロになりたい』と願ったことのない人も、恐らくはいない。
けれど、
その夢はいくつ叶うだろうか?
競争するからこそ磨かれる、
戦いに負け堕ちる者の数だけ、頂点に立つ者はより輝く。
『ずっと』なんて、ないのだ。
嫌が応なしに月日は流れて、
いつか高校を去る日は訪れる。
夢を諦めて、普通の会社に就職して、家庭を持って、
『昔バスケをしてたよな』
なんて、他人事のように話す日が来るのかもしれない、
この場にいるほとんどがきっと、僕も、
……僕は?
「黒子」
こんな喧騒の中で、まるで透明な空間に一人きりでいるようだった、
その静寂が破られた。
「火神くん」
「お前ほんと影薄いな、さっきまで隣にいたと思ったら突然いなくなりやがって」
「すみません」
別にいいけど、と呟いて、彼は隣に並ぶ。
僕は置いていかれたのだろうか、それとも、
僕自身が歩みをやめたのだろうか?
「火神くん」
「あ?」
「よく見つけられましたね、痛っ」
後頭部をはたかれる。
「お前溶け込みすぎだっつーの」
それでも探してくれた。
きっと、大声で文句を言いながら。
「火神くん、もし僕がバスケをやめるといったらどうしますか」
「はあ?」
横顔を盗み見ると、彼は驚きもせず、ただ前を向いて歩いていた。
いつものように、不機嫌そうな顔で。
「お前やめんの?」
「いえ、今のところは」
「じゃあくだらねー事言ってんじゃねーよ」
「すみません」
片手に持っていた缶ジュースを開ける。
小さな仕草さえ豪快な彼と、何をしても他人の目に留まらない僕。
「つーか、お前がそう決めたってんなら何も言わねーけど」
「はい」
「俺は辞めねぇ。辞めろって言われたって俺は続ける、他人にどう言われようが俺の勝手だ、俺はバスケしてーんだ。それに」
言葉を切ると一気に飲み干した。
「俺がやるなら、お前もやるだろ。勝手に同じラインに立ってるのがお前だ」
見上げると、ニヤリと笑ういつもの顔。
「そうですね」
謙遜なんて彼にはない。
自分がやりたければやる、自分がやるなら僕も絶対についてくる、そう信じて疑わないのだ、彼は。
僕も、それに応えるのだけれど。
『ずっと』なんてないと思うのは、そう思ったときすでに、辞めることを決めているからだろう。
でもそんなもの、結局は自分次第だ。
そっと小指を絡めると、火神くんの熱が伝わってきた。
ちらりと一瞥すると、心なしか顔が赤い、周りに気付かれないと分かっていても恥ずかしいのかもしれない。
「照れてますか」
「んなわけねー」
ふ、と笑うと、違うと言うかのように小指に力が込められた。
「火神くん、いつまでも隣にいていいですか」
「嫌って言ってもくっついてんだろ」
「はい」
それは僕の意志だ、
変わることのない。
だからそこに『ずっと』はあるのだ。
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人込みの中、黒子を必死で探す火神が見てみたいです。
20120503