「敦」


喉にかけられた手は冷たくて、
触れた皮膚がひやりとした。



「あー、…気持ちい」

「気持ちいいの?怖いじゃなくて?」


ふふ、と声に出して笑う。
あ、これ、苦笑に近い笑いだ。心の中でそっと分析する。


「力、込めていいの?」


ああ、この口元、好きだな。

ひどく恐ろしいことを企んでいそうな、優しい笑顔。


蔑みでも憐れみでも何でもいい、
もっと笑って。その笑顔で。



「んー、いーよ。室ちんに殺されるなら、いーや」



だって、室ちんが目に映ったまま死ねるんだよね?
それって幸せかもしれない。

うすぼんやりと漂う思考は、そのうち、死んだらどうなるのかとか、別の方向へ向かっていった。

と、ふいに喉から手が離れた。


「駄目」

「なんで?」

「一緒にいたいからね」

「そっかぁ」


うん、と笑って頭を撫でられる。
あ、この手も、好き。
意外と冷たいんだよね、室ちんの手。



手をとって頬にあてる。
わずかに室ちんの匂いがして、静脈が波打って、ああ、生きてる証だ。


俺が死んだら、室ちんは泣いてくれるのだろうか。
黙って室ちんを見つめて、心の中で問い掛けてみる。

もちろん、答えはなかった。



「室ちん、…」

「ん?」


黙っていると、どうしたの?と微笑んで、頬を撫でられた。
優しいなあ、でも、いつか簡単に突き放されてしまうんだろうか、この優しくて冷たい手に。



「やっぱり、室ちんが殺してね」

「縁起でもないことやめろよ」


室ちんは笑うから、俺も笑った。



(だって、)

(死ぬまで一緒にいてくださいなんて、言う勇気はないから、)



それならせめて、

あなたの手で殺してほしい。




















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弱さゆえの執着心、執着心ゆえの弱さ。

20120528




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