「ぐれますよ」
「あ?」
目の前に座るテツの目は真剣だ。
しかもちょうど寝ようと横になったところで、正直言って邪魔だ。
「青峰くんは気が向けばバスケ、気が向かなければ横になってだらだらしてるだけですよね」
「あー」
まあ、否定しないけど。
座り直すテツは体育座りなんかして、別に特別なことしたい訳じゃないですけど、と、下を向きながらぽつりと呟く。
「でも、これ付き合ってるって言えますか」
「言えるんじゃね?」
返した瞬間頭を上げてこっちを睨む。
無視して目の前の雑誌に手を伸ばしたけれど、すぐに取り上げられてしまった。
「僕、付き合う前の青峰くんの方が好きです」
「…そーかよ」
俺は恐らく「釣った魚に餌をやらない」タイプだ、手に入れたら安心して、突き放してしまう。
自覚はある、良いか悪いかは別として。
「聞いてますか」
「聞いてるよ」
これ、言ってることは文句だけど、
別に怒ってるんじゃないんだよな。
「うまく言えないですけど、」
これはいつもと同じ、
『もっと構って』の合図だ。
「もう、いいです」
黙って背中を向けてしまった。体育座りのまま。
あの体勢どうにかなんねーの、けっこう可愛いんだけど。
とか、今言っても裏目に出そうだから、黙ってみる。
「おい、テツ」
「…………」
ああ、こういう時のコイツは本当に頑固で扱いにくい。
それに一番厄介なのは、
「なあ、……悪かったって」
「キス」
「あ?」
「キス、してくれないと動きません」
背中を向けたまま淡々とした声が響く。
「…お前後ろ向いてんじゃん」
「青峰くんがこっちまで来ればいいでしょう」
「はあ!?」
とにかく知りませんから、と小さな声で言い切ると、さっきと同じ体勢のまま動かない。
「テツ」
呼びかけても返事はない。
仕方ないから立ち上がる。
回り込んで顔を見るとふてくされた横顔、
触れてほしいと全身で訴えながら。
「テーツ」
真正面にしゃがんでも目を合わせまいと下を向くから、顎に手をかけて上を向かせる。
「………ん、」
舌を滑り込ませると、貪るかのように絡めてきた。
首に手が回されて、必死にしがみついてくる華奢な身体。
抱きしめたまま、悪かった、と謝ると、
分かったならいいんです、と呟いた。
………こういうとき、一番厄介なのは、
どんなに突っぱねても最終的に俺が折れるって、ちゃんと理解してやってる所だ。
悔しいし、腑に落ちないけど、惚れたもん負けだから仕方ない。
ずるいよな、
俺は最初から負けてるんだ。
なあ、テツ、
俺、付き合ってからデートらしいこととか、確かに全くしてないけど。
「……お前ってけっこう甘えただよなー?」
「…うるさいんですけど、青峰くん」
何をするにも、お前の傍から離れないってこと。
なあ、
気付いてるか?
*******
構ってほしくて拗ねる黒子。
その本心を汲み取ってくれることを想定した彼なりの甘え方のひとつ、そんなイメージ。
20120524