「おはよう」
君が起きる瞬間を見届けたくて早起きしたなんて、内緒。
まるで永遠の眠りについているかのように透き通る白い肌、キスしたらまるで眠り姫のように目覚めてしまいそうで。
「……………おはようございます」
低血圧のかすれ声、でも、これはいつも通りの君、いつも通りの朝。
少しばかり眠そうに目をこする。
たまらず瞼にキスすると、んーと言って身をよじる。
「…………何なんですか、そのポーズは」
「え?」
「なんかモデルみたいですけど」
横を向いて、黒子っちを腕に抱いて眺めていただけなんだけど。
「まあ、モデルっスけど、一応」
目の前の彼は呆れたように、そういうことじゃないです、とだるそうに呟いた。
「なんで待ち構えてるんですか、朝から」
布団からゆっくりと起き上がる、
白い肌がむき出しになって、鎖骨には昨日付けた朱い痕が色濃く残っている。
けだるそうな彼の仕草、ひとつひとつが妙に色っぽい。
「黒子っちにおはようって言いたかったから」
腕を引っ張ると黒子っちは小さく、わ、と声をあげて、胸に倒れ込んできた。
「黒子っち、おはよ」
寝癖のついた前髪をあげてキスすると、不思議そうな顔でこちらを見やる。
「おはようって、さっきも言いましたよ」
「何度でも言いたいんスよ」
「……そうですか」
感触を確かめるように抱きしめてキスをすると、くすぐったそうに身じろぎした。
身体はあたたかい。
「……動けないんですけど」
「うごかさせなーい」
冗談めかして言うと、文句を言おうと口を開いてこちらを向くから、自分のそれで塞いでやった。
「…ん、」
首筋に顔を埋めて、昨日付けた痕に色を重ねる。
恥ずかしがって逃げるから、腰を掴んで抱き寄せた。
「黄瀬く、…恥ずかしい、」
「何が?」
「跡、のこる…」
「残してるの」
これは俺たちの証、
愛し合った、ふたりの証。
そんなこと口にしたら、君はロマンチストですね、なんて言うんだろう。きっと真顔で。
ねえ、どれだけかけがえのない事なのだと、君は分かっているだろうか。
大好きな人が自分を同じように愛してくれて、
その愛する人と一緒に時間を過ごせること、朝を迎えられること、
今日という日を、共に生きられること。
ひとつひとつの奇跡が積み重なって今がある、
だから忘れないように、口に出す。
「…何笑ってるんですか」
「んー?幸せだから」
腕におさめた温もりは、いつしか自ら身体を寄せてくれていた。
感謝しなくちゃ、
喜びを教えてくれた君に、
噛み締められることの幸せに。
それは、目覚めのキスと同じ価値と意味をもつ。
だから俺たちは、
「おはよ」
「…おはようございます」
今日も言葉を重ね合わせる。
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カンパニュラの花言葉:感謝
嬉しさを感じる瞬間も、思い通りにいかない毎日でさえ、全てかけがえのないものであって、
それを感じることのできる「今」は、すべて奇跡で成り立っているんだと思います。
20120522