「黒子っち、ねえ、それ一口ちょーだい」
「嫌です」
「なんでっスかー」
「これは僕が気に入っているシェイクだからです、そんなに飲みたいなら自分で買ったらどうですか。100円ですから」
「ええ〜」
黒子っちひどい、とか何とか言いながら、目の前の彼はへらへらと笑う。
「なんか機嫌悪いっスねー」
誰のせいだと思っているのか。
ここ最近毎日校門で待ち伏せされて、お気に入りの店にまでついて来て、鬱陶しいことこの上ない。
だから話し掛けられても最低限のことしか返さない、隙あらば厭味を返そう、
そう決めているのに、実行しているのに、どうして彼は折れないのだろう。
「制服デートっていいっスねー」
「デートは双方がそう認識することでデートになるんですよ」
「じゃあこれはデートっスねー」
「………」
そうか、どんな厭味も聞こうとしていないのか。
相手にするのが面倒で無視していると、彼は調子に乗って僕のシェイクを飲み始めた。
「!ちょっと、それ僕の…」
「もらったもん勝ちー」
ああ、不愉快だ。
「なんでついて来るんですか、毎日」
「黒子っちが好きなもの知りたくて」
へらへらと笑う彼の顔。
「どうしてですか?」
「黒子っちが好きだから」
「………」
不愉快だ。
そういうことをさらりと言ってしまえる彼が、
それに気付いていた僕が。
そして、
その気持ちを少しでも嬉しいと思ってしまっているのが、なんだか悔しくて、
「…不愉快です」
「ふふ」
恐らく僕の気持ちに気付いているであろう、彼の笑顔が腹立たしくて、
取られたシェイクを無言で奪い返した。
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拍手ログ。
アールグレイ:ベルガモットで香り付けをした紅茶。
黒子=紅茶、黄瀬=ベルガモット、というイメージで。
いつの間にか浸食されている、恋のはじまり。
20120520