うつぶせになって、手を伸ばしてみる。

広くて大きな背中、

届きそうで、届かない、



「…届きませんね」

「でかくなりたいのか?じゃあもっと食えよ」


この人は、
鈍すぎる。


「ほら、これやるよ」

「…………ありがとうございます」


正直食欲はあまり湧かないけれど、
目の前に差し出されたハンバーガーの包みを開けた。

これを口にしたら、
少しは君と通じ合えるのだろうか?

知恵の実のように?



「…じゃあ代わりにこれを」

コンビニで買った菓子パンを差し出す。


「おー、サンキュ」


…お弁当交換会のようになってしまった。


これを食べて、
僕の感情が少しでも伝わればいいのに。


「うめーなこれ」



…まあ、そんなわけは、なく。


バスケでハイタッチはいとも簡単にできるのに、
…今は、目の前にあるこの背中に触れることもできない。



「おい、黒…」

「、っ!」



突然振り向かれて、伸ばしていた指先が背中をかすめた。


「悪い」

「いえ」


ふいに手をとられる、それだけで、鼓動が速くなるのが分かった。


「手ー痛めんなよ」

「はい」


何のことはない、ただ心配してくれただけだ。

それだけで、僕の手を気遣ってくれたという事実だけで、触れた指が熱を帯びる。


「…………」

「…………」



それでも、まだ、

指先は届かなくて。




「…火神くん」

「あ?」

「見ますか?数学の課題」

「マジか!?見る!!」


目を輝かせてこちらを振り向く。

君の目線はすでにノートに向かっているけれど、僕の目線は離れない。


別に特別数学が得意な訳じゃない、だけど、
後ろを向いて欲しいから、その口実に毎晩予習しているだなんて、

言えないし、言わない。



「あっやべ」

「はい、消しゴム」

「悪りーな」


どんな方法でもいいから、

あの大きな手にもう一度触れたくて、

君に後ろを、向いて欲しくて。



また僕は手を伸ばす、



君への距離、ゼロまで、あと。




















*******
触れられない代わりに振り向いてもらおうと、悩んで試行錯誤する黒子。
一生席替えしないでください!

20120517

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