「なあ、」
「火神と俺って、似てるか」
しんとした闇に、声が遠く広がる。
「はい」
今なら、こいつの声も普段以上によく響く。
だから本当は、こんな時間にこんな場所で、こんな質問をするべきじゃなかったんだ、
そうすれば、聞きたくないことも聞かずにすんだのに。
「どのへんが?」
「そうですね、野生っぽいところとか」
「動物かよ」
「あと、自分勝手なところとか」
「はっ、言いたい放題だな」
俺の笑い声だけ響く。
こういう時テツはいつも微笑む、
まるで笑い声を吸収しているかのように、
相手が笑った声を聴くことで、自分も楽しさを実感しているかのように。
この表情が好きだった。
「でも、」
テツの声は水に似ていると思う。
一見、何も残らないのに、波紋はどこまでも静かに広がっていくような、
「笑った顔が、違います」
心の底を、突かれるような。
「……へー…」
電灯で顔は見れたはずだけど、
顔なんて見たくもないから、背を向けた。
夜でよかったのかもしれない、
今どんな表情をしてるのか、
見なくても想像がついてしまいそうで、一瞬きつく目を閉じた、
こんな自分を見られたくない。
当たり前のように見ていた笑顔が、今はもう違う奴に向けられているなんて、
きっと今脳裏に浮かんでいる笑顔はあいつのものなんだろうなんて、
思わせるテツにも、思ってしまう自分にも、
堪えられなくて。
「テツ」
「はい」
ああ、こう呼ぶのは今でも、
俺だけだろ?
「テツ、好きだよ」
それだけが唯一俺の、特権だ。
「…好きですよ、僕も」
たった二文字の発音が、
もう、あの頃と違う響きを持っていて。
「………そっか、」
だから俺は、
嘘だと知っているから、
笑った。
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桐皇戦終了後142Qの深夜のバスケシーンのイメージ。
青峰は実はとても我慢強いと思います。
独占欲ゆえにその「好き」は、彼にとって嘘にも等しい。
20120515