俺たちは同じクラスで、確かに仲が良いとは思っていた。よくケンカはするけれどいつも一緒にいて、口数は少ないのにちゃんと互いを理解しているようで、二人の間には絆のようなものが感じられた。でもそれはチームメイトとしてのものだと、それが思い込みだったと気付いたのは。
夏の林間学校でのことだった。
夜。喉が渇いて目が覚めた。起きたら目が冴えてしまって、空気を吸おうとコテージの窓際に向かった。気分転換になるかと思った、それは大きな間違いだった。
「っぁ、」
窓に掛かった手が止まる。それは小さな声が聞こえたからだ。押し殺した声、それは甘いもので、思わず自分の耳を疑いながら。
「ちょっ…だめです、ってば」
「皆寝てるだろ」
「起きたらどうするんですか、っん…!」
音を立てないように開けた窓の隙間から、声は徐々にはっきりと聞こえ始めた。会話だけ聞けば単に盛った高校生カップルの会話、呆れたとしても違和感はなかった。ここは男子部屋のはずで、その声が聞き覚えのある友人二人のものでなければ。
「混ぜたくはねぇな」
「当たり前っ…ぁ、ぁ…」
そっと覗くと、そこには想像した通りの声の主がいた、
「黒子…と、火神…?」
火神と思われるのは声だけで顔が見えない。というのも、黒子のシャツがめくりあげられて、その中に顔を埋めているからだ。顔がはっきりと見える黒子は口に手を当てて俯いている。…さっき聞こえた声はやっぱり黒子のものらしい。信じがたいけれど。
開いた窓の隙間からそっと除く、壁にもたれてキスしているのは間違いなく火神と黒子の二人だった。うっすらと月に照らされて黒子の表情が見える。時折目を開けて、また閉じて、絡め合う舌が覗いた。
何をしているのかなんて、それがどういう意味を持つかなんて、混乱した脳は判断することさえ諦めた。ふいに火神が黒子の下半身をまさぐって、デニムの中に手を入れて。次の瞬間、にやりと口元を歪めて笑った。黒子は瞬間的に俯いたから、どんな表情をしているかは見えなかった。
「っふ、……ん、…っ」
くちゃ、小さく聞こえたのは水音だった。恐らくそれは黒子のデニムから聞こえた、火神が手を突っ込んだままの。デニムが動いて見えるところから察するに、中で火神が触っているようだった。水音が少しずつ大きくなっていく。
「っ火神く、ちょっと、…」
「いいから後ろ向け」
躊躇いがちに振り向いてこちらの壁に手をついた、黒子の頬は朱く紅潮していた。火神が後ろから耳元で何か囁いて、次の瞬間、勢いよく黒子のデニムが下げられた。
「………!」
影から見えた黒子のものは勃ち上がっていて、濡れて光っているように見えた。まさか、と思うのと、火神が自分のものを当てがうのはほぼ同時だった。
「っん、あぁ…!」
濁った音を立てながらそれは黒子の中に飲み込まれていく。やがて二人の腰はぴったりとくっついて、黒子はただ壁にしがみついていた。小さく震えながら。揺れ始める火神の腰。
「…っぁ、ん、あぁ……っ」
嘘みたいな光景だった。二人が恋人同士だったなんて夢にも思わなかった。それに何より、火神のものを入れられて声を上げている黒子が。火神の腰の動きに合わせて声を上げて、その聞こえる声は甘くて切なげで、妙に色っぽくて。
「っぁ、ゃ、ぁん…っ」
火神の手が伸びて黒子のものを掴んだかと思うと、打ち付けながら上下に擦り始めた。さっきよりも高い声が上がる。
「っやぁ、だめっ、……」
ぐちゅぐちゅと音がする。真っ赤に充血して張り詰めた黒子のもの、さっきよりも濡れて光って見える。やがて声は啜り泣くような、懇願するようなものに変わっていた。
黒子が後ろを向いて火神に何か呟いて、そのまま火神が口付ける。腰の動きが激しくなって。
「っあ、ぁ、ぁぁっ…!」
ガタン、手をついた壁から音がして、黒子のものがぶるりと震えた。瞬間、飛び散る白濁。
「っん…」
動きを止めて火神のものが引き抜かれた。壁に手をついたまま荒く息をつく黒子の顔を引き寄せて、またキス。黒子の太股に白い液体が垂れているのが見える。黒子はそっと指を当てがって確認すると、小さく顔をしかめた。
「ちょっと待ってろ」
そう言いながら火神が消えた。消えた?近付いてくる足音。まずい、そう思って自分の布団に戻ろうとした瞬間、ドアを開けた火神と鉢合わせた。
「!降旗…」
「………よ、よお」
一瞬驚いた顔をすると、眉をしかめた。けれどなぜか焦った様子はない。
「…お前、もしかして見てた?」
「み、見てないって!何にも!」
「…嘘つけ」
呆れるような火神の視線を辿ると、それは俺の股間。…膨らんでいた。自分の頭を殴りたくなると同時に生まれた自己嫌悪。まさかチームメイトに欲情したってことか、俺。
「降旗、今の誰にも話すんじゃねーぞ」
「い!言わないって!」
「…ああ、あと一つ言っとくわ」
ゆっくりと口元が吊り上げられた。
「黒子は俺のだから」
そう言ってタオルを掴むと火神は出て行った。
布団に潜り込んで頭まで被る。
なんで俺、見ちゃったんだろう。明日から俺、どんな顔すればいいんだろう。
熱くなった頬を何度も擦る。下腹部にある、いまだに張りつめた存在を意識の隅で感じながら。深い深い溜息をついた。
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降旗視点でした、彼は色んな意味で目撃者と被害者になりそうな気がします。
20130203