「あのさあ、峰ちんて黒ちんのどこがいいの?」


唐突な質問に横を向いてみれば、声の主である紫原はいつもの仏頂面で、目が合うと、峰ちんに言ってんの、と表情を変えずに口だけ動かした。


「どういう意味だよ」

「だって黒ちんと付き合ってるんでしょ?」

「そうだけど」


自分に向けていた視線はボールへと移る。早くも話題に飽きたのかと思えば、だって黒ちんってさ、と口を開いた。


「例えばさあ、野菜で言うとカリフラワーみたいな?味がなくてさ、でも食べるとなんか食感が嫌な感じで。ねぇミドチン」


はあ?と返すのと、ベンチに座って汗を拭っていた緑間が顔を上げるのはほぼ同時だった。


「野菜で例えるならという話か?」

「んー違うけどまあそれでもいいよ」


そうだな、とボールを足元から拾い上げながら緑間が呟く。野菜で言うならこいつは不味くて苦いやつだな、理由もなしに心の中でそう思いながらその動作を見つめる。遠くで黄瀬の声が聞こえた。


「ほうれん草といったところか。一見地味なようでいて栄養が高い。時々はっきりと意見を述べるところは特有の苦味に似ているな」

「別にそういう例えをしたいわけじゃないんだけど」

「つーかお前言いたいことは何なんだよ」

「黒ちんってよくわかんないじゃん、どこがいいのかなーと思って」


なんか気になっただけ、語尾を伸ばしながらそう言うと、紫原はポケットから飴を取り出した。包みを開けた瞬間、すれ違いざまに赤司が「運動中のお菓子禁止」と言いながら手の平の飴を奪っていった。紫原の不満げな声が漏れる。


「分かんねぇってテツのことか?アイツよく笑うしすぐに怒るけど」

「黒子が怒るだと?」

「何したの峰ちん」

「テツの髪が引っ掛かってよ」



それはついこの間のことだった。

青峰のコートのファスナーに黒子の髪が絡まった。
直そうと弄っていたらふいにブチ、と鈍い音がして。同時に黒子の身体はするりとコートから離れて、けれどファスナーには髪が引っ掛かったままだった。

黒子の髪がちぎれて抜けたのだと気付いた瞬間、振り返る彼と目が合って、こちらを睨みながら呟いたのだった。青峰くんの不器用、と。


「それのどこが怒ってんの?」

「それで終わんなかったんだよ」

「そもそもどうしたらコートに髪が引っ掛かるのだよ」

「あ?こう、抱きしめたらちょうど頭がファスナーの位置にあって」



事の顛末はこうだ。

黒子の希望で本屋に出掛けた帰り、下りのエスカレーターに乗っていたときのことだった。前に立つ黒子にのしかかったのがきっかけだった。

何となしに頭に顎を乗せてみた。普段なら『青峰くん重いです』と言って逃げようとするのが、その時ばかりはされるがままでいたから、それを良いことに腕を回して後ろから抱きしめた。

エスカレーターにはほとんど人が乗っていなかったものの、人目を気にしたのか今度ばかりは抵抗をみせて。このまま続けていたら機嫌が悪くなるのが分かっていたから身体を離そうとしたら、その瞬間ファスナーに髪が引っ掛かって離れられなくなってしまった。程なくエスカレーターの降り口に到着するというのもあって解こうとしたけれど、それは失敗して髪ごと引きちぎる結果となってしまったのだった。



「……ノロケとかうざいんだけど」

「違ぇよ、その後がよ」



不器用、と睨みながら言うところまでは良かった。そのまま本屋を出ると、どうして人前で抱きしめたのか、人目を気にしろと歩きながら長々と説教された。面倒なので聞き流していると次に、人前で抱きしめたら青峰の家に行かないと言い出したのだ。


「俺悪くねぇだろ、目の前にテツがいんのに何で止めなきゃいけねーんだよ」

「峰ちんいい加減本当うざい」

「家に来ないと何の都合が悪いのだよ?家で何をするのだよ」

「ミドチンそれ天然なんだろうけどうざい」



緑間が納得できないと言うように顔をしかめた瞬間、遠くで黄瀬の声がまた響いた。その方向を紫原が振り返る。対角線上には黒子に付き纏う黄瀬がいて、べたべたと纏わり付く黄瀬を黒子は表情を変えずにあしらっているように見えた。


「嫉妬とかしないわけ?」

「しねぇな別に、触って欲しけりゃテツはもっと自分から寄って来るからな」

「…へー」

「わざと放っとくと黙ってくっついてくんだよ」

「ふーん」

「自分から甘えてくる時は何つーの?予兆?みたいなもんがあって、その後もなぁ」

「もういい、峰ちんうざい」












「…って話をさっきしてた」

「………最低です」


横断歩道で立ち止まる、苦々しげに呟いた声と一緒に吐かれた息は白い。


「なんで?」

「なんでって…」


呆れた表情をしたかと思うと、大きく溜息をつく。恥ずかしいです、と呟いた横顔は暗闇の中でも少し朱く見えた。顔を覗き込もうと身体を屈めると小さく睨みつけてくる。

本気でないと、本当は笑っていると、もしかしたら自分以外は気付かないのかもしれない。
でもそれならそれでいい。気付くのは自分だけでいい。



「そういうこと他の人に話したら本当に家に行かなくなりますよ」

「嘘だろ?」

「…………それは」



睨んだ目つきが和らぐ、それは言葉が裏腹だったという証拠で。そのまま身体を屈めてみれば瞬間的に理解して、駄目ですよ、と制止する声。

横断歩道の向かいには人が立っているのが見える。けれど今の言葉が本気でないことはすでに分かっているから、そのままキスをして。唇を離すと怒ったようにみせた顔。



「…勝手な青峰くんは嫌いです」

「嘘だろ?」

「…………嘘、ですけど」



もう一度口付ける、抵抗はない。
重ねた下で口元が小さく笑った。


















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人前で触りたがったり、自覚なくのろける青峰だと嬉しいです。そしてまんざらでもない黒子。

20121119
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