その日は土曜日だった。
部活は休みで、バッシュが欲しいと言う火神くんに付き合って電車で30分かかる駅まで行った、その帰りのことだった。
改札には人が溢れ返っていて、それはホームも同じで。電光掲示板には『電車遅延』の文字。
はぐれたら最寄駅で、と約束をして乗り込むと、車内はすでに人でいっぱいで。人の流れに飲み込まれて、火神くんの姿は見えなくなってしまった。
どうにかドア付近の手すりに掴まることができて。前にも横にも人がいて、息が詰まって思わず上を見上げる。マンションの広告、広くて綺麗な部屋の写真。
あ、ここ火神くんの家に近い。
そうぼんやりと考えていたときだった、太股を何かが掠めた。下を見るとそれは手で、恐らくは男性の。
ぶつかるのは仕方ないと思ってそのままでいると、なぜか手はそのまま太股から離れずにいて。
もしかして、と思った瞬間、その手は撫でるように下半身をまさぐり始めた。気持ち悪くて逃げようと身体をねじってみたけれど、すし詰めになっている車内では身動きが取れない。
どうしようかと考えていると、指がぴたりと先端に触れた。
「っん…!」
思わずあがった声に口を押さえると、耳元で笑うような声が聞こえた。少し大きくなってしまったのが自分でも分かる。そうしている間にも手は動き回って、抑えなければと思えば思うほど与えられる刺激に反応してしまって、気付けばデニム越しに形が分かるほどになっていた。
痴漢もその様子に気付いたようで、撫で回していた手はいつの間にかしごくようにゆっくりと上下を往復し始めた。
「…っん…、ぁ」
強弱をつけられて小さく漏れてしまった声に慌てて顔を上げる。見回すとなんとか気付かれてはいないようで安心する反面、反応してしまった自分が恥ずかしくて俯く。
手がシャツの裾をまさぐり始める。阻止しようと回した手はもう片方の手で押さえられて、次の瞬間、するりと下着の中に侵入してきた。
痴漢の指が先端に触れる、瞬間、くちゃ、と音がして。
音が妙に大きく響いた気がしてまた俯くと、抵抗しないのを良しとしたのか、さらにエスカレートして手が後ろ側に回ってきた。
先走りをすくっては塗りつける、仕草が妙に優しくて。細長い指が後孔に当てがわれて、ゆっくりと潜り込んできた。
「っん、…んんっ…」
内壁を擦りながら指は奥へと侵入していく、一瞬ひくついてしまったのが分かったのか、指がもう一本増やされて。
「…っぁ……!」
最奥を突かれた瞬間達しそうになってしまって、手すりに掴まってどうにか耐えしのぐ。停車駅を告げるアナウンスの声、最初は早く降りたくて仕方なかったのに、今はそんな風に思う気持ちは微塵もない。
絶え間なく与えられる下半身への刺激と射精感に必死に堪えていると、
「……いって!!」
突然の鋭い声に驚いて顔を上げると、そこには痴漢の腕を掴む火神くんがいた。電車がゆっくりと停車する。
「黒子、降りんぞ」
「あ、…はい」
手を引かれて電車から降りる。どこにいたんだろう、いつから見られていたんだろう。怒っているだろうか、
「かが…」
呼びかけた瞬間振り向いて抱きしめられる。幸いホームには他に誰もいなくて、しばらくそのままでいた。
「……悪かった」
「火神くん、」
「全然気付かなくて、…悪かった…」
苦しいくらいに抱きしめられる力が強くなる。嬉しくて、だけど、
「……火神くん」
「黒…」
腕を掴んで触れさせる。
気付いてほしくて、下半身の疼きがずっと止まらないでいることに。
「ぁ、っあ…!」
狭い個室、駅のトイレにぐちゃぐちゃと音だけが響く。デニムはだらしなく足元にずり落ちて、突かれる度にカチャカチャとベルトの金具が音を立てる。
「ぁ!ぁっ、ぁんっ…」
「っお前、静かにしろって」
「ご、めんなさ、…っぁ…!」
必死に掴まっていると、後ろから口に指が差し込まれた。汗ばんで、手をついた壁から滑り落ちそうになる。
「ん、っふ…んぅ…っ」
まだ奥が疼いていてどうしようもなくて、腰を後ろに押し付ける。
音を立てないように、なんて気遣いはいらない、むちゃくちゃに突いてほしい、壊してしまうくらいに突いてほしい、
「っぁ!あ、ぁっ…!」
電車と同じ、射精直前の快楽に溺れていると人が入ってくる音がした。瞬間的に止まる腰。
「っ、突いて、…っ」
「バカお前、人いんだぞ」
小声で窘める声。
ゆっくりと腰を動かすと、くちゃ、と音がした。結合部に力を込めると、中で少し大きくなるのが分かった。
「火神くん、お願い…、」
電車の中からずっと、それしか考えていなくて。
今だってもう、その考えが頭を占めている、火神くんの精子を中いっぱいに出してほしい、なんて、いつもは口にしないような願望ばかり、今にも口を突いて出てしまいそうなくらい、
火神くんの腕を掴んで自分のものを握らせる。先走りは自身をぐちゃぐちゃに濡らしていた。彼の指が触れただけで達してしまいそうになる。
人の気配が消えて、瞬間また突かれ始めた、彼の手の中で自身が擦れて、中も彼のものでいっぱいで、
「っぁ、ん、ん…!」
突きながら後ろから抱きしめられて。背中が熱い、溶けてしまいそうに熱い。結合部から漏れる水音と、耳に差し込まれて中を掻き回す舌の動きと音に、頭が真っ白になって。
「っぁ、ぁ、あーっ…!」
瞬間、弾けたように震えながら精子が吐き出されて、溢れた白濁が火神くんの手を汚していく。中に彼のものが注がれていくのを感じながら。
「…っは、……っ」
荒く息をつく彼の方を向くと、抱きしめられて。
ごめんな、と小さく呟く声に、返事をする代わりに唇を重ねた。
「うちまで歩いて帰れる距離だけど。お前歩ける?」
「…腰、痛いです」
「あー、じゃあ電車乗って…」
「おんぶ」
「は?」
「おんぶしてください」
マジで言ってんのかよ、と言う怪訝な顔に、マジです、と返すと、大きくため息をついて。
「ほら」
しゃがみ込んで広げられた背中。
足を掛けておぶさると大きくて広い。視界もいつもよりずっと高くて。
「君の背中、好きです」
「調子いいなお前…」
「本当ですよ」
歩きながらしばらくして、ごめんな、と呟いて。大丈夫です、と答えると、またごめんなと返されて。前を向いていてその表情は見えない。
「大丈夫です、今度から電車には乗りません」
「じゃー遠出するときどうすんだよ」
「火神くんの自転車に乗せてもらいます」
「どんな距離でも?」
「どんな距離でも」
「電車で1時間くらいかかる場所でも?」
「電車で1時間くらいかかる場所でも」
「マジかよ…」
「マジです」
腕を回して首筋に顔を埋めると、彼の匂いがして。
くすぐったいと呟く彼の頬に身体を屈めて、後ろから口付けた。
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20120930