不快だ、と呟く声が聞こえた。


「何がっスか?」

腕を緩めて声の主を覗き込むと、小さく睨む目が見えて。そのまま何も言わないから額に口付けると、腕を小さくつねられた。


「あと10cm」

「え?」

「…縮めてやるにはどうしたらいいだろうな…」


まるで恨んでいるかのように低く呟くと、ちら、と俺の頭上を見遣る。どうやら身長を気にしているらしい。まだまだ伸び盛りとはいえ、彼と俺の身長差は日に日に開いていた。縮めてやるという言葉に自分が伸びるほうじゃないのかと思ったけれど、言ったら今度は何をされるか分からないからやめておいた。


「今は身長とか関係ないじゃないっスか」

「ある」


ベッドに寝転んでいる今、そんなもの関係ないのに。でも即答するところから察するに、彼にとっては足のぶつかり具合だとか些細なことも身長差を感じさせてしまう要素なんだろう。もう一度腕の中に押し込んで口付けると、その不満そうな表情は消えた。


「……あ」


自分で意識したと同時に彼も違和感として感じたらしく、顔を上げて。少し眉を潜めた。
そういう行為をしたことはまだない。それでも恋人を抱きしめていて抑えろと言う方が酷だ。


「赤…」

「しないぞ」


きっぱりと言い切る声に反論することも出来ずにいると、小さく笑う声がして。仕方ないから口付ける。少しでも触れたくて、出来る限り身体を密着させて。


「……っん、」


舌を滑り込ませて歯列をなぞる、逃げるように身体をよじるから腕で押さえて。上顎を擦ると上ずった声が漏れた。


「黄、……っぁ」


いつの間にか腕を掴む手の力は緩んでいて、シャツのボタンを外しながら首筋に舌を這わせると徐々に甘くなっていく声。胸の飾りを舌で転がすとびくりと肩が震えて。覆い被さっていた身体をずらすと腰に硬いものが当たった。


「…赤司っち、これ」

阻止しようと伸ばされた手を腕で押さえてベルトを外す、現れた彼のものは大きくなっていて下着越しにも分かる。


「っぁ!」

中に手を滑り込ませると濡れた感覚、顔を見ると背けて手で隠して。指を絡めようとすると、腰がひくついて後ろに逃れようと引いていく。


「っや、」

とん、と背中が壁につく音がして。逃げられないと分かって観念するかと思えば、それでもまだ。全力で押しのけようと伸ばす手を掴んで口付ける、すると一瞬抵抗が緩んで。その隙に下着ごとズボンを下ろす。膝の辺りで留まったそれを引き抜いて、足を割って入って。彼のものに手をかけると、先端がぬるりと滑った。


「っん、ぁ」

そのまま上下に扱くと質量が増していく。次第に先走りも量を増して、指の間からくちゃくちゃと水音が漏れて。


「っ黄瀬、やめ、」

「うん?」

「も、…っ」


どかそうと腕が掴まれて、指の力は痛いくらいに。それでも扱き続けると、ぎゅ、と目をつむって。


「っぁ、…あっ……!」

手の中で彼のものがぶるりと震えて白濁が飛び散った。扱く指に白く絡みついて。
荒い息づかいに、見ると怨むように向けられた目。真っ赤に潤んだ目はいつもと違って。



「……していい?」


優しくするっスから、そう言いながら抱きしめると、死ね、と呟いて、でも。きゅ、と小さく抱きしめ返してきた。




引き出しからローションを取り出すと、一瞬怪訝そうな表情を浮かべて。赤司っちのために買ったんスよ、と言うと頭をはたかれた。そんな態度も、ローションを絡ませた指が後孔に触れると途端に変わって。


「っい……ぁ、」


指を入れた瞬間、ぎゅう、と目を閉じて。ゆっくりと内側を擦りながら進むと、ん、と小さく声を上げる。ある一点に触れたとき、ひくりと中が動いた。


「ここ、いいの?」

「…っん、…!」


指を掻き回すとローションがぬちゃりと音を立てる。そのまま混ぜるようにしながら抜き差しすると、荒く息をつき始めた。時折甘い声が漏れる。


入れていい?と耳元で尋ねると小さく頷いて。自分のものを当てがってゆっくりと腰を沈めていく。
きつく、やわらかい粘膜が絡みついていく。


「…っぁ、痛、…っ」

ぎゅ、と閉じた目尻に浮かぶ涙が扇情的で、舌で掬って舐めとる。抱きしめると痛みを紛らわす為か懸命にしがみついてきて。そのまま腰を進めていくと、声が徐々に大きくなっていった。


「っぁ、…っあ!」


最奥に触れた瞬間、声がいっそう大きくなって。


「…ここ?」

「っん、ぁ、…ぁ!」

一点を集中して突くと、突く度に声が上がる。速度を速めるにつれて大きくなっていく声が、自分の動きに合わせて上がる声が嬉しくて。


「…っぁ、ぁ、…りょ、…た」

「え?」


思わず腰の動きを止める。
今、なんて?

顔を見ようとすると、荒く息をつきながら背けた。その頬は赤い。


「……何でも、ない」

「呼んで」


目を合わせようとしないから顔を向かせて口付ける、すると隙間から小さく。


「……涼、…太」


途切れ途切れに、零れ落ちる度に唇を塞ぐ。漏れた言葉を掬い上げるように。


「もう一度」

「涼、……っぁ!」

再び腰を動かし始めると、途端に語尾が甘く濁った。声にならない声を上げてしがみついてくる。


「もっかい、言って」

「っぁ、あ、…涼、太……っ」


突き上げながら口付ける、舌を滑り込ませると絡み合う。くぐもった声はいつもより高くて、甘い。


「っん、…ぁ、……んっ…!」


自身が擦れる度に小さく目をつむるのが分かる、まるで何かに堪えているかのように。その答えはきっと、突き上げながら彼自身を握ると一際高い声を上げた。

瞬間首に回る腕。抉るように突き上げると、我慢できないと言うかのようにがくがくと身体が震え始める。


「あっ、ぁ、涼、…っ」

「ん、一緒にイこ、」

「っぁ、あ……っぁ…!」


瞬間しがみつく身体に力が入って、何度も震えながら達して。
彼のものがかかるのを感じながら、その締め付けに熱を中に注ぎ込んだ。



抱きしめて可愛い、と囁くと、恥ずかしいのか見せまいと顔を押し付けて、首筋に噛み付いてきた。ぎりぎりと食い込んで痛い、痛いのに嬉しいと思ってしまうのはきっと、しがみつきながら赤くなっているこの人が可愛くて愛しくて仕方ないからだ。


「俺も征十郎って呼んでいいっスか?」

「…やめろ」

「じゃあもう一度涼太って呼んで」

「……涼太」

「もう一度」


口付けながらねだると、何度でも呼んでやる、と呟いた、口調と声色はいつも通りだったから。それがなんだか可笑しくて笑ってしまった。













「涼太、この件だが」

「何スか?」



「………おい赤司、今何つった?」

「涼太、って呼びましたね」

「!」

見ると一瞬、まずい、という顔をして。
放課後の更衣室、声は響いたらしく、他のメンバーもこっちを見つめていた。


「…敦にテツヤ、大輝に真太郎。こっちの方が呼びやすいだろう」

済ましたような表情に陰で隠れて笑っていると、背中に鈍い痛みが走ったのは言うまでもなく。


ただ、彼の努力も虚しく、
それから間もなくして、俺たちの関係はバスケ部全体に広まることとなったのだけれど。





















*******
初めての行為が黄瀬を涼太と呼ぶきっかけになって、つい皆の前で呼んでしまって。照れ隠しに他の皆も下の名前で呼び始めたとしたら、いいなと思って。


20120923

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