2


水色や紫やピンクの花のグラデーションが、煙るような霧雨の中で何故か其処だけ浮き上がって見えた。
「ほら、蝸牛までいるし」
そう言って、指で葉を摘んだ先には確かに小さな蝸牛がいた。
「……塩を撒いたらなくなるかな」
「そういうことは言わない」
全く、そういう風にしか言えないんだから、と彼がピンと指先で私の頬を軽く弾いた。
「塩なんか蛞蝓にだって撒けないくせに」
うるさいな。
溜息をついて、私は紫陽花に視線を戻した。
紫陽花には雨が似合う、と思う。
お日様の下だと折角の色も光に負けてしまう気がする。
雨の日に気分が沈む私とは大違いだ。
――でも。
私は深呼吸をした。
「いつまでも沈んでる場合じゃないしね」
「そうそう」
「雨はいつか止むしね」
「そうそう」
「帰って朝御飯食べよう」
私はくるりと身体の向きを変えて、元来た道を戻り始めた。
「花より団子か」
「当然でしょ? 花を見たってお腹は膨れないわよ」
「色気より食い気」
「しつこいよ」
心なしか、足取りは軽かった。



「行って来ま〜す」
そう言って玄関に向かおうとすると、ちょっと待って、と後ろから声がかかった。
「水出し。持って行け」
そう言って、タンブラーが押しつけられた。
「……あ、有難う」
「春摘みのダージリン。ちょっときつめに淹れといた」
頭がすっきりするように、と彼は言った。
「青くさいのもいいよな、たまには」
「そうだね。……有難う」
改めて、行って来ます、と告げて玄関に向かった。
靴を履いてドアを開けると、雨は止んでいた。
水分を多く含んだ空気の中で。
いつまた降り出すかは分からなかったけれど、駅まで傘をささずに行けることに感謝しつつ。
私は深呼吸をして、笑顔をつくった。
そして。
勢いよく駅に向かって歩き出した。




(終わり)







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