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そうすれば男性関係が充実した高校時代が送れたというのに。
悲しい。
「そ、そうなの?」
「国枝さあ、誰にでも話しかけてたじゃん。だから野郎には凄く人気あったんだよ」
「嘘だあ〜」
「嘘じゃないって」
私は頭を抱えた。
「そうか……私は高校の頃が人生の絶頂期だったのか……」
ぼそっと呟くと、永野君が笑った。
「抜け駆けしとけば良かったな〜。今からでも間に合う?」
「間に合わない」
「何、誰かいるの?」
「一応ね」
カウンターの向こうでは、いつも通り涼やかな顔で仕事しているけど、あれは多分……聞き耳を立ててるな。
「残念だなあ。国枝だったら俺、いつでもいいんだけどさ〜」
「有難うございます」
お気持ちだけで十分です、と続ける。
「そういえば永野君、林さんと付き合ってたんだよね、卒業してすぐの頃」
永野君は照れたように笑った。
「そうそう」
「随分噂になったからね〜、あの頃」
クラスでも大人しくて目立たない女の子が、学級委員の永野君に卒業式の日に告白した。
彼女が男性に告白したというのも事件だったが、付き合いだしたというのも大事件だった。
翌年、同窓会が開かれたが、林さんは大変身していた。
顔つきも、雰囲気も、服装も、全てが高校時代とはまるで違っていた。
醜いアヒルの子が白鳥になったかのように。
口さがない人が「整形したんじゃないの?」と陰口をたたいた程だった。
人間て、変わろうと努力すれば変われるものなんだ、とつくづく私は思ったものだ。
「林は結婚したらしいよ」
「え、いつ?」
「一昨年だったかな。子供もいるみたいだし」
「へえ〜」
想像つかない。
「永野君は、その予定はないの?」
「ないない。今はいないし。そっちは?」
「自分が既婚者になってるところが想像出来ない」
「国枝は家庭に入るタイプじゃないよな〜」
「仕事、好きだからね」
「今の男と別れる予定があったら言ってよ、いつでも俺は引き受けるからさ」
「その頃には新しい彼女がいるんじゃないの〜?」
お互い、顔を見合わせて笑った。
「……お待たせしました」
マスターがお茶を運んで来た。
永野君には私が恋焦がれてやまないダージリン。
私は、ミルクティー。
「頂きます」
久々の紅茶が嬉しくて、カップを口に近づけた。
が。
香りが違う気がする。
「……」
一口、飲んでみる。
いや、確かに紅茶は入っている。インドはアッサムの紅茶が。
しかし。
《ミルク》ティーではない。
……豆乳じゃないの! これは!
「リンの紅茶、旨いだろ?」
何も知らない永野君はにこにこと笑って紅茶をすすっている。
「そ、そうね……」
「リンがこういうお店を持つなんて信じらんないよな〜。大体、接客がリンに出来るとは俺には思えなかったし」
「やろうと思えば出来るんだよ」
麟太郎がカウンターから永野君に言い、さりげなく私を見た。
「色々と、ね」
……コノヤロウ。
私は密かにカウンターの中の男を睨みつけた。
そして。
「永野君、リンの女性関係ってどうなのよ。高校卒業してからどうだった訳? 元追っかけとしては『物凄く』興味があるんだけど」
……あ。目つき変わった。
「国枝、大学一緒じゃなかったっけ?」
「一緒だったけど、専攻が違うとあまり接点がなくって」
「リンは秘密主義だからね〜。しかも手広く付き合うタイプじゃないし」
「あ〜、友達もあんまりいないしね」
「そうそう。あ、でも俺1人知ってる」
「誰、誰?」
「何か凄い美人だったのは覚えてる。確かミスコンで優勝した子だったとか……」
あれは違うっ、とカウンターから声が聞こえたが、私は無視した。
「へえ〜、ミスコンね〜。じゃあ、美男美女って感じね〜」
「そうそう」
……そんな顔したって駄目よ、リン。
たまにはやりかえさないとね。
カウンターからの刺すような視線は知らん顔してやり過ごす。
……なるほど。
栗原さんとは多少は接点があったのか。
やっぱり警戒しなきゃ。
私は永野君の話を笑顔で聞きながら、そんなことを考えていた。



「……いつから《猫の杜》は豆乳紅茶がウリになったのよ」
私は麟太郎のいれてくれた冷煎茶を眺めて言った。
土曜日の夜。
麟太郎がアパートに来ているというのに、私は憎まれ口ばかり。
「健康にいいと思って」
嘘をつけ。
「久し振りに紅茶が飲めると思ったのに」
寄りかかると、向こうもそっと体重をかけてくる。
「侑は緑茶」
「だから、その根拠は何よ?」
「ちゃんと飯食ってないだろ」
「そんなことない」
「……でも食欲落ちてるだろ」
抱き寄せられて、私は麟太郎の腕の中におさまる。
……あったかい。
「お前、痩せた」
「そうかな」
痩せた感覚はまるでないけど。
「いつの間にかダイエットになってたんだ〜。洋服にはいいかも〜」
「もう少しふくよかな方がいい」
ああそうですか。




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