5


まもなく麟太郎はカップ2つと急須と、何故か納豆入れを持って戻って来た。
コポコポと音を立てて、お茶はまず納豆入れに注がれて、それが更にカップに移される。
爽やかな香りが立ち上る。
「やっぱりいい香りだね」
そう言うと、麟太郎もふわっと笑った。
……ううむ。やっぱり殺人的微笑かも。
本人には言わないけど。
「……どうぞ」
「頂きます」
カップを持ち上げ、口をつける。
「……美味しいっ」
私の言葉に安心したのか、続いて麟太郎も飲み始めた。
「……本当だ」
「やっぱり高いお茶は違うわね〜」
「俺の腕がいいんだろ」
「あ。拗ねてるし」
「うるさいな」
私は麟太郎の顔がおかしくてつい笑ってしまった。
そして。
「やっぱりこのお茶、うちに置いといていい?」
私がそう言うと。
「……いいよ」
少しの間があって、そんな返事が返って来た。
目の前で、このヒトが同じお茶を飲んでいる。
それだけでどうしてこんなに幸せなんだろう。
ところが。
「……東方美人にしておけば良かった」
麟太郎がぼそっと呟いた。
「そうね。四季春じゃあ爽やか過ぎて泊まりには至らないわね」
しれっとしてそう言うと、麟太郎が心底嫌そうな顔をした。
「お前まさか、そのつもりで、わざと……?」
「さあね」
そう言って視線を外してやる。
「はめられた……っ」
はめたつもりはないけど、そう思わせておくのも面白いかも知れない。
詰めが甘いんだよ。
一昨日来やがれっ。
そんな言葉をお腹の中で呟いて。
私はにっこりと笑ってみせた。




(終わり)








[ 8/21 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -