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青い、お茶?
「青って若さを感じるね」
私がそう言うと、麟太郎が笑った。
きっと本来の意味は違うのだろうけど。
別にいいや、と思った。



カフェを出ると(また支払いは麟太郎)、今度は茶葉を買う為に専門店に足を踏み入れた。
高いものから安いものまで、ピンキリ。
お目当ての四季春は。
「……た、高い」
卒倒しそうになってしまった。
欲しいけど高いんだよな。
考えているうちに、麟太郎の買い物が終わったらしく、こちらを振り返った。
「はい」
そう言って包みを私に差し出した。
「へ?」
「国枝の」
「私の?」
ぼんやりと包みを受け取って、はたと気がつく。
「これ、幾らだった?」
慌てて財布を開けると、麟太郎はそれを押しとどめた。
「いい」
「いい……って、だってこれは私のなんでしょ?」
「いいんだよ」
「……」
ちょっと、待て。
つまり、これは。
「……買ってくれたの?」
麟太郎は頷いた。
「ええっ?!」
あり得ない。
今日の麟太郎は変だ。
御飯はおごってくれたし。
お茶代も出してくれたし。
その上、お土産まで。「……大丈夫、なの?」
恐る恐る聞いてみる。
だって、麟太郎も決してお金が余ってる訳じゃない。
それなのに。
「気にするな」
そんなこと言われたらそれ以上突っ込む訳にもいかず。
「……ありがとう」
そう言うしかなかった。
麟太郎は殺人的な微笑を浮かべて、じゃあ行こうか、と言った。
……眩暈がする。
頼むから、そういう顔する時は予告して下さい。
そうすれば、少しはダメージも和らぎます。
……って、ダメージが和らぐ訳、ないか。



――で。
何で私の家なのに私は此処で座って頬杖ついていて、麟太郎が台所にいるんだろう。
「最初は俺がいれる」
助かりますが、何やら心中複雑です。
だってあの四季春は私にくれた筈でしょ?
何でわざわざ私の家に上がり込んでまでお茶いれたりする訳よ?
色々期待するからやめてくれ。
……言わないけどさ。
「……それさあ、お店に置いといてくれると私が楽なんだけど。お店取り置きで私専用のお茶ってことで」
「いいから此処に置いとけ」
「だって此処にあってもリンがいれるんじゃ同じじゃない」
私がいれるんじゃないんじゃさ〜、と続けると、麟太郎は何故かガスをとめてからこちらにやって来た。
私の向かいに座る。
「……お前なあ、いい加減にしろよ」
「何が」
麟太郎は何だか怒っているようだが、それが何なのかさっぱり分からない。
「そんなこと言うと本気で襲うぞ」
「何で私がリンに襲われなきゃなんないのよ」
「襲わなきゃお前が分かんないからだろ」
「襲わなきゃ分かんないって何よそれ」
何だか私も沸々と怒りがわいて来た。
何でいきなりキレるのこの男。
「お前がいつもそんなだからだろ!」
「そんなって何よ……」
ちんぷんかんぷんなんですけど。
でも。
「全く、リンと縁を切りたくないから、こっちだって少し距離おいて抑えてんのに!」
ええい、この際だ、言ってやる!
「私はもう何年も男はアンタしか眼中にないっ! リンには周りに何人もいて、手を出してたか何してたか知らないけど!」
「周りに何人もいたのはお前だろ! 俺が知ってるだけでも5人はいる!」
「あんなの全部断ってるわよ! 目の中入らなかったんだから! アンタと違って!」
「俺だってないっ!」
「嘘つけっ! 適当にデートしてたくせにっ!」
「飯は食ったがそれだけだっ!」
絶対、嘘。
女にモテるんだから、このヒトは。
「……とにかく。俺が出かける時に誘う女はお前だけだから」
「都合がいい女って言いたいの」
次の瞬間。
私は窓に身体を叩きつけられた。
麟太郎が私の顔の両脇に手をついて、至近距離で顔を寄せる。
……ああ綺麗だなあ。
呑気にそんなことを思った。
「しょうがないでしょ、アンタから電話貰えば飛んで行くような女なんだから、私は」
そう、小さく呟く。
「馬鹿よね、本当に」
つい、笑ってしまう。
「……都合がいいなんて言うな」
「だって本当にそうなんだもの」
「そんなこと言うな……」
文字通り口は塞がれて、私の反論も閉ざされる。
……もうどうでもいいや。
麟太郎の首に手をまわして、私は考えるのをやめてしまった。



「リン、お茶いれて」
窓際で向かい合ってイチャついていて、ふと私は四季春を麟太郎がいれかけていたことを思い出した。
「……お茶ぁ?」
「飲みたいなあ〜。リンのいれるお茶」
「こういう時言うかぁ〜?」
「リン、四季春」
私は腰に回された手を外して、にっこり笑った。
「性格悪いよな、侑」
「リン程じゃないよ」
麟太郎を台所に追いやり、私はまた卓袱台に頬杖をついた。
暫くすると、お湯が沸く音が聞こえ、そのうち、お茶をいれる音まで聞こえて来た。



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