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奢ってくれるなんて。
……あり得ない。
「ちょっと大丈夫なの?」
「今日はいい」
麟太郎は私の手から伝票を抜き取ると、さっさとレジのところに行ってしまう。
慌てて追いかけたが。
でも。
奢りだなんて、初めてだ。
調子が狂う。
会計を済ませ、店を出たところで。
「ご馳走様でした」
麟太郎に礼を言うと。
「どういたしまして」
という答えが返って来た。
……雨が降ったらどうしよう。
本気で思った。



その後、暫し街中をそぞろ歩きした。
メインは、中国茶の専門店と、何故か乾物屋。
麟太郎に言わせると、中国茶のカフェに入ると大概、西瓜や南瓜の種や山査子なんかがお菓子でついてくるのだそうで、関係は大ありらしい。
中国茶の専門店では、一通り茶葉を見てみたり、急須や茶碗を見てみたり。
麟太郎も熱心だったが、私も珍しさからじっと見ていた。
でも、何故か買わなかった。
お目当ての四季春もあったけれど、麟太郎に後で買えばいい、と止められた。
少しくたびれた頃、そろそろお茶にしよう、と麟太郎が言い、私も同意して、中国茶専門のカフェに入った。
メニューを開けた。
……高い。
しかも、種類が多すぎて、何にしたらいいのかさっぱり分からない。
「沢山あって分からないよ……」
私がそう呟くと、麟太郎が私のメニューを指さして言った。
「この辺が台湾」
「ふむふむ」
「俺、金萱にするから、国枝は東方美人にすれば?」
……東方美人?
何だかオリエンタルビューティーになれそうな名前だ。
私に否やはなく、その通りに注文した。
まもなく、2つやかんが来て、めいめいの前の電気コンロにセットされた。
目を丸くしていると、麟太郎が言った。
「中国茶は何煎も出るから、お湯はお代わり自由なんだよ」
「じゃあ、長居しても怒られない?」
「多分」
何ていい所なんだ。
その代わり値段は高いけどさ。
まもなくお茶が来た。
竹製の箱の上に急須と湯冷ましのような器、手前には小さな細長い茶碗とお猪口のような茶碗とお菓子の入った小皿と砂時計が置かれる。
1煎目はお店の方がいれて下さった。
やかんのお湯で茶器を温めてからお湯は竹製の箱に捨て、茶葉とお湯を入れる。
それを直後に捨てて、もう一度やかんのお湯を注ぐ。
砂時計を倒し、時間が来ると、今度は湯冷ましのような器にお茶を注ぎ、そのお茶を細長い茶碗に入れ、それをまた小さな茶碗に入れて。
「香りをかいでみて下さい」
細長い茶碗を渡された。
ちょっと癖のある、甘い香り。
「いい香り……」
思わずそう呟くと、向かい側から手が伸びたので、茶碗を渡す。
麟太郎は茶碗に鼻を近づけるなり、言った。
「中国紅茶に似ていますね」
「そうですね。東方美人は発酵度数が高いですから」
紅茶は完全発酵茶。
東方美人も含めたいわゆる烏龍茶と言われるお茶は、途中で発酵をとめるのだそうだ。
途中でとめてはいても、発酵が紅茶に近いので、自然と紅茶に近くなるらしい。
お茶を頂いてみた。
独特な甘み。
疲れも吹き飛ぶ。
「……美味しい」
向かい側からまた手が伸びた。
茶碗の縁を軽くぬぐい、湯冷ましの中に残っているお茶を注いで渡す。
くいっと一息で飲み干し、そのまま茶碗が帰って来る。
「拭きなさいよ、飲んだとこは」
私が顔をしかめると、麟太郎が言った。
「神経質だよな、委員長は」
「アンタがずぼらなだけでしょう」
溜息をついて、茶碗の縁を拭く。
全く。
私の気持ちを知っててわざとやってるんだから、タチが悪い。
正視出来ず、思わずそっぽを向いてしまう。
そうこうするうちに、麟太郎の金萱茶も1煎目が入り、早速味わっている。
「飲んでみる?」
否やはない。
しかし。
「……だからさあ、口のとこ拭けって言ってるでしょ」
「いらないのか」
「そうじゃなくて」
駄目だ。
仕方ない。
私は諦めて反対側から飲んだ。
「……これもまた違うね」
何というか……ミルキーな味わいのお茶。
「全部台湾の烏龍茶でしょ?」
茶碗を返しながら言うと、麟太郎は頷いた。
「四季春と東方美人と金萱と、国枝はどれが好き?」
「うーん」
悩む。
どれも美味しいから。
でも。
「四季春、かな」
麟太郎がいれてくれたお茶だから。
「どれも美味しいけどね」
ついでにヒマワリの種を口に入れる。
「リンは?」
「俺もそうかな。凍頂烏龍とか翠玉とか四季春とか、ああいう爽やかなのがいい」
目が覚めるから、と言う。
その間も、お互いお湯を入れては飲み、お菓子をつまむのを繰り返す。
何煎入れただろうか。
いつの間にかお店の客は私達以外すっかり入れ替わっていた。
「烏龍茶と言われているお茶は、青茶とも言うんだよ」



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