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『ノブさんと別れてから、ふと思い出したので電話しようと思ったのですが、電話出来ないし、メルアドも分からないので、ノブさん宛てなんですが吉野さんに送ります』

『陽菜ちゃんの口から、子供の父親らしき人についてのことを、一度だけ聞いたことがあります』

『街で久し振りに会った、って言ってました』


……久し振り?


『ずっと好きだった人みたいです』



村田の言う人物に心当たりがあった。


――アイツだ。



俺はすぐに施設の先生に電話をかけた。
自殺の名所の四野岬。
俺は或る人物を其処に呼び出した。



「――陽菜と村田を殺したの、アンタだろ」
そいつを前に、俺は言った。
「陽菜は子供が出来てアンタに詰め寄ったんだろ。村田はアンタに繋がる情報を持ってたから殺したのか」
そいつは笑った。
「陽菜は自殺だよ」
「嘘だっ! 陽菜がこんな高い所に行く訳がない!」
大体、と俺は叫んだ。
「陽菜の腹の子供の父親はお前だろっ!」
「どうだか」
そいつは言った。
「陽菜は随分と周りに男がいたからね……君も含めて。彼女は寂しがり屋で、独りでいることが苦手だったじゃないか」
場にそぐわぬ、柔らかい笑顔。
「男と付き合うなってあんなに言ったのに。だから死ぬことになるんだ」
穏やかに。
「陽菜は彼らのことを友達だと言ってたけど、実際はどうだったんだろうね」
「……友達だろ」
男と女の関係ではなくて。
でも、そいつは笑った。
「友達、ねえ。単なる友達じゃなさそうだったけどね……そう、『特別』な。頼めば寝てくれるような友達」
「テメ……!」
「知らなかった訳じゃないだろ?」


……ソンナノ、ウソダ。


「君の名前が彼女の口から頻繁に聞かれたのは、友人関係になってから寝なかった唯一の男だからだ。つまり、君は安全だったからだよ」
「まさか……」
俺は目を見開いた。

『陽菜、ノブ君に会いたがってたんだよ。死ぬ少し前』

『ノブ君が一番マトモな彼氏だった気がする』

頭の中に、美香の言葉が甦って来た。


……ソンナノ、ウソダ。


「俺は信じなかったよ。陽菜が子供の父親が俺だって言った時も」
そして。
「だから言ったんだ。堕ろすか別れるかどちらかだって」
「そんなの選択肢なんかじゃねーだろっ!」
それでもそいつは穏やかに言った。
「陽菜は変わっていなかった。男にだらしないままだった。あんなに言ったのに、男達と手を切らなかった」
遠くを見て。
「堕ろすって言ったよ、陽菜は。だから費用は俺が出した」
「じゃあ、どうして陽菜は……」
「さあね。何故、子供と飛び降りたんだろうね」
金も何処かに消えたし、と呟く。
まるで興味がないかのように。


……ソンナノ、ウソダ。


俺はうちひしがれながらも、尋ねた。
「……村田はどうしたんだよ」
「ああ、彼は――」




――そして。
足元には気を失った男が転がっていた。
俺は岬からそいつを落とした。
派手な水音は、荒ぶる波にかき消された。
……これで、いい。
俺は笑った。





しかし。
俺は知らなかった。
俺の頭上で、にやにや笑った男の顔が夜空に浮かんでいたことに。


――コレデ、サンニンメ。







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